障害者雇用でも正社員として働くことは可能ですが、障害の種類によって割合や雇用形態には大きな差があります。なぜ正社員になりにくいと感じる人が多いのか、どうすれば安定した雇用を目指せるのか、不安に思う方もいるでしょう。企業側の事情や制度の実態を知ることが第一歩です。今回は、障害者雇用における正社員の現状や課題、目指すためのポイントについて解説します。
障害者雇用における正社員の現状

まず、障害者雇用における正社員の割合や雇用形態の実態について、厚生労働省の調査をもとに解説します。あわせて、正社員化を後押しする国の制度についても紹介します。
出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
障害者の雇用形態
障害者雇用においては、障害の特性によって正社員比率や雇用形態の傾向が大きく異なります。
障害の特性別雇用形態
| 区分 | 無期契約の正社員 | 有期契約の正社員 | 無期契約の正社員以外 | 有期契約の正社員以外 | 無回答 |
|---|---|---|---|---|---|
| 身体障害者 | 53.2% | 6.1% | 15.6% | 24.6% | 0.5% |
| 知的障害者 | 17.3% | 3.0% | 38.9% | 40.7% | 0.1% |
| 精神障害者 | 29.5% | 3.2% | 22.8% | 40.6% | 3.9% |
厚生労働省の調査(令和5年6月1日時点)によると、身体障害者では「無期契約の正社員」が53.2%と過半数を占めています。これに「有期契約の正社員」6.1%を加えると、約6割が正社員として働いていることになります。一方で、「無期契約の正社員以外」が15.6%、「有期契約の正社員以外」が24.6%となっており、非正規雇用も一定数存在しています。
知的障害者の場合は傾向が異なり、「無期契約の正社員」は17.3%、「有期契約の正社員」は3.0%にとどまります。対して、「無期契約の正社員以外」が38.9%、「有期契約の正社員以外」が40.7%と、約8割が正社員以外の雇用形態です。支援体制や業務内容の特性上、段階的な雇用が多いことが背景にあると考えられます。
精神障害者では、「無期契約の正社員」が29.5%、「有期契約の正社員」が3.2%となっており、身体障害者と知的障害者の中間的な水準です。一方で、「有期契約の正社員以外」が40.6%と高く、雇用の安定性という面では課題も残っています。また、無回答が3.9%と他の区分より高い点も特徴です。
このように、身体障害者は比較的正社員比率が高い一方、知的障害者や精神障害者では非正規雇用の割合が高い傾向にあります。正社員として安定して働きたいと考える場合、自身の障害特性に合った職種選びや、職場の配慮体制の確認が重要になります。
正社員化を後押しする国の制度も
障害者の正社員化を促進するため、国は企業向けに支援制度を設けています。その代表例が「キャリアアップ助成金(障害者正社員化コース)」です。
この制度は、有期雇用や無期雇用で働く障害のある従業員を、正規雇用へ転換した企業に対して助成金を支給するものです。特に中小企業を主な対象としており、一定の条件を満たした上で正社員転換を実施した場合に活用できます。
企業側にとっては人件費負担の軽減につながるため、正社員転換へのハードルを下げる効果が期待されています。求職者にとっても、最初は有期契約やパート勤務であっても、実績や評価次第で正社員を目指せる環境が整いつつあるといえるでしょう。
ただし、助成金の活用には事前の計画届出や就業規則の整備など、細かな要件があります。正社員を目指す場合は、こうした制度を活用している企業かどうかを確認することも、安定したキャリア形成への一歩になります。
障害者雇用で正社員になるのが難しい理由

障害者雇用枠での就職を目指す中で、「正社員は難しいのでは」と不安を感じる方も少なくありません。実際に、求人の多くが契約社員やパートからのスタートとなっています。
ここでは、企業側の視点を踏まえながら、障害者雇用で正社員採用が難しくなる主な3つの理由を解説します。
フルタイム勤務が難しいと思われている
障害の特性によっては、体力や集中力の持続が難しい場合があります。そのため企業側が「フルタイム勤務は負担が大きいのではないか」と判断し、正社員採用に慎重になることがあります。
正社員=フルタイム勤務というイメージが根強く、安定的に週5日・1日8時間働けることを前提とする企業も少なくありません。特に精神障害や発達障害の場合、環境変化や業務負荷によって体調が左右されやすいと見られ、採用時に不安視されるケースがあります。
しかし近年では、短時間正社員制度やフレックスタイム制度、在宅勤務制度など、柔軟な働き方を導入する企業も増えています。必ずしも「フルタイムでなければ正社員になれない」わけではありません。
重要なのは、自身の働ける時間や配慮事項を整理し、安定して働ける根拠を具体的に伝えることです。勤務実績や通院管理の状況、自己管理の工夫などを説明できれば、企業の不安を軽減する材料になります。
能力・スキルが不足している
正社員に登用されるためには、障害の有無にかかわらず、社会人としての基礎力や業務に必要なスキルが求められます。
例えば、報連相(報告・連絡・相談)が適切にできること、基本的なビジネスマナーを身につけていること、担当業務を一定水準で安定してこなせることなどは、正社員として働く上で重要な要素です。
障害者雇用では配慮が前提となる一方で、「配慮があれば成果を出せるかどうか」が評価のポイントになります。単純作業のみを希望する、責任の範囲を極端に限定する、といった姿勢では、正社員登用が難しくなる場合もあります。
そのため、PCスキルの習得や資格取得、業務経験の積み重ねなど、総合的な能力向上が重要です。就労移行支援や職業訓練を活用し、できる業務の幅を広げることが、正社員への近道になります。
短期離職を懸念している
企業が正社員採用に慎重になる大きな理由のひとつが、短期離職への懸念です。
業務負荷や人間関係のストレスにより体調を崩し、早期に退職してしまうのではないかという不安をもつ企業は少なくありません。正社員は長期的な雇用を前提としているため、採用や教育にかけたコストが無駄になるリスクを避けたいと考えるのは自然なことです。
そのため、まずはアルバイトや契約社員として雇用し、一定期間の勤務状況や勤怠の安定性、業務適性を見極めた上で正社員への転換を打診する企業もあります。いわば「お試し期間」を設けることで、双方のミスマッチを防いでいるのです。
求職者側としては、まずは安定して働き続ける実績を作ることが重要です。勤怠を安定させる、無理のない業務量を相談する、困りごとを早めに共有するなど、継続就労を意識した行動が、結果として正社員登用の可能性を高めます。
障害者雇用で正社員になるメリット・デメリット

障害者雇用において正社員を目指すことには大きなメリットがありますが、一方で人によっては負担となる側面もあります。自分にとって最適な働き方を選ぶためにも、メリットとデメリットの両面を理解しておくことが大切です。
正社員のメリット
正社員として働く最大のメリットは、雇用と収入が安定する点です。
無期雇用が前提となるため、契約更新のたびに不安を感じる必要がなく、長期的なキャリア設計がしやすくなります。毎月の給与も比較的安定しており、賞与や昇給の対象となるケースも多いため、将来設計や生活設計を立てやすいのが特徴です。
また、福利厚生が充実している企業も多く、住宅手当や各種休暇制度などを利用できる場合もあります。社会的信用も得やすく、ローン審査や賃貸借契約などの面で有利になることもあるでしょう。
このように、安定した生活基盤を築きたいと考える方にとって、正社員は大きな魅力があります。
正社員のデメリット
一方で、正社員には負担が大きくなる可能性もあります。
非正規雇用に比べて業務範囲が広がりやすく、残業が発生することや、場合によっては転勤を求められるケースもあります。体調管理が重要な方にとっては、勤務時間や勤務地の変化がストレスになることも考えられます。
また、責任の重い業務を任される機会も増えます。成果や役割への期待が高まる分、プレッシャーを感じやすくなるかもしれません。さらに、勤務日数や時間の調整など、柔軟な働き方が難しくなる場合もあります。
正社員が必ずしもすべての人に最適とは限りません。自身の体調やライフスタイル、将来の目標を踏まえた上で、無理のない働き方を選択することが重要です。
障害者雇用で正社員になるためのポイント
障害者雇用で正社員を目指すには、単に求人へ応募するだけでなく、事前の準備や自己理解が重要です。企業が「長く安心して任せられる人材だ」と判断できる材料を整えることが、正社員への近道になります。ここでは、正社員を目指す上で押さえておきたいポイントを解説します。
障害特性の理解
正社員として無理なく働き続けるためには、まず自分の障害特性を理解することが大切です。
どのような環境で力を発揮しやすいのか、どのような業務や状況で負担がかかりやすいのかを整理しておくことで、ミスマッチを防げます。自己理解が曖昧なまま就職すると、入社後に無理をして体調を崩し、結果的に働き続けることが難しくなるおそれがあります。
また、必要な配慮事項を具体的に伝えることも重要です。「指示は口頭だけでなくメモでもいただけると助かります」「繁忙期は業務量を段階的に増やしてほしいです」など、実務に即した形で説明できると、企業側も対応しやすくなります。
資格取得やスキルアップ
担当する職種に関連するスキルや資格を身に付けることは、正社員を目指す上で強みになります。
例えば、事務職であればPCスキルや簿記資格、IT系であればプログラミングや関連資格など、業務に直結する能力を証明できると評価につながりやすくなります。スキルが明確であれば、企業も「戦力として活躍できる」と判断しやすくなります。
また、円滑に業務を進めるためには、コミュニケーション力や社会人としてのマナーも欠かせません。挨拶や時間管理、報告・連絡・相談といった行動を日頃から続けていくことで、周囲からの信頼を得やすくなります。
まとめ
障害者雇用で正社員になるには、現状を理解し、自己理解とスキル向上を重ねながら、安定して働ける実績を築くことが重要です。
正社員には安定という大きな魅力がある一方で、責任や負担も伴います。国の制度や企業の支援策も活用しながら、自分に合った働き方を見極め、無理のない形でキャリアを築いていきましょう。
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めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。