編集日:2026.10.23
公開日:2026.10.23
誰もが可能性に蓋をすることなく最大限に力を発揮できる環境を提供したい
障がい者雇用をめぐっては、段階的に引き上げられてきた法定雇用率をいかに達成するか、頭を悩ませている企業は多い。それに対し、障がい者雇用の本質を「個の活躍」に置き、数字の達成にとどまらず、サービス提供の最前線での雇用を貫いてきた会社がある。全国で『焼肉きんぐ』や『丸源ラーメン』などを展開する大手外食チェーン、物語コーポレーションである。現在、約380名の障がい者が全国の店舗で活躍する同社だが、ここに至るまで、どのような想いをもって障がい者雇用に取り組んできたのか。同社で障がい者雇用を統括する人財応援部シニアマネジャーの國分氏に、詳しく聞いた。
interviewee
株式会社物語コーポレーション
経営理念推進・人財戦略本部
人財応援部 シニアマネジャー
國分 淳志(こくぶん あつし)
「チャレンジド」の呼称を使用し「障害」のマイナスイメージを払拭
―まずは御社の事業内容と障がい者雇用の状況から教えてください。
当社は、『焼肉きんぐ』や『丸源ラーメン』をはじめとする飲食店ブランドを全国で運営するとともにフランチャイズチェーンを展開する会社です。国内に800を超える店舗を出店していますが、当社が雇用する「チャレンジド(障がい者)」のほとんどが、これらの店舗で活躍されています。
「チャレンジド」というのは、当社における障がいのある方々の呼称です。障がいの「碍・害」という字が持つマイナスのイメージを払拭し、よりポジティブになって周りの人々とより積極的に関わってもらいたいとの想いから、この呼称を使っています。
チャレンジドの在籍数は2026年9月末時点で約380名に上り、そのうち知的障がい者が約半数、精神障がい者が約30%、身体障がい者が約20%という比率です。
―――多くの方々が、実際の店舗で活躍しているのは、物語コーポレーションにおける障がい者雇用の特徴の1つですね。
はい。活躍の場は一人ひとり違い、そこには障がいの有無は関係ない、というのが当社のスタンスであり、それは当社の経営理念に紐づく「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の考えに基づいています。
多様なお客様がいらっしゃる飲食店を運営するにあたり、我々自身が多様な価値観を持ち合わせていなければ、それぞれのお客様に寄り添ったサービスを提供することは難しいと考えています。人財の多様な価値観を認め合い、一人ひとりが違いを恐れず積極的に発言し議論を交わすことで、小さな改善が積み重なり、「大きな差別化」が生み出され、成長を支えていく。当社ではこうした考えのもと、「個」の活躍を推進しています。そして、我々の事業においては、もっとも重要な活躍の場というのは、店舗をおいてほかにはありません。チャレンジドの多くが実際の店舗で活躍しているのは、そうした背景があるのです。

採用の最終決定権は現場の店長に
―物語コーポレーションが、障がい者雇用に力を入れるようになった経緯を振り返っていただけますか。
個の活躍を後押しする「人財応援部」に私が配属されたのが2020年7月でした。法定雇用率の達成という法令遵守の目的もあり、チャレンジド雇用を少しずつ推進していきながら、社内啓発による理解を深めていきました。
もともと当社は「Smile & Sexy」という経営理念のもと、障がいの有無にかかわらず、すべての従業員が「なりたい自分」に向けて、個人の有する力を存分に発揮することを重視していました。ただ、具体的にチャレンジドの雇用制度や労働環境の整備といった部分で会社としての方針が定まっておらず、社内での知識も十分ではありませんでした。担当になった私自身が、「法定雇用率って、なに?」という状態でしたから。
そこから、まずは書籍やネットで世の中の障がい者雇用の実情や関連する法律の情報を調べながら、近隣のハローワークへ相談に行きました。そこで紹介されたのが、3つの採用方法でした。まず、短期間で採用したいのであれば、ハローワークに障がい者雇用求人を出すこと。中期的に採用活動を行うのであれば、各圏域にある就労支援機関と連携をとり、そこの登録者を面接して採用する方法。そして、もっとも長期的に、腰を据えて取り組むのであれば、各地の特別支援学校と連携し、職場体験実習などを行いながら、卒業生を受け入れる方法でした。
のちに、定着率の高さから、特別支援学校との連携強化にシフトしていくことになるのですが、当初は3つの方法をすべて試みました。特別支援学校の職場体験実習は、高校1年生から3年生を対象に2020年から実施してきて、今は年間100件ほど学生を受け入れています。
―受け入れにあたって、特に工夫や配慮を行ったことはありましたか。
会社として、法定雇用率達成は意識しながらも、まずは、各店舗の店長に最終決定権を委ねました。当社のような業態においては、現場の店長に裁量権があることはとても重要なことだと考えたからです。どの店舗も店長はいかに地域の人々から愛されるお店づくりをするかに挑戦しています。この「人々」には、お客様や従業員はもとより、チャレンジドの方々も当然含まれます。そのため、採用するもしないも、実習を受け入れるも受け入れないも、すべて店長に決めてもらうことにしています。私たち人財応援部の役割は、店長の裁量を尊重しながら、採用・定着をサポートすることです。
―現場への権限移譲が、障がい者雇用を推進する原動力になったと。
はい。店舗運営の責任者たる店長は、誰しも採用に対する強い責任や自負を抱いているものです。私自身、過去の店長経験からその気持ちをよく理解しています。ですから、最終決定権を店長に委ねることは、取り組みを推進するうえで不可欠な条件だと考えていました。
そのほか、人財応援部としては、採用の支援や採用後の定着支援などはもちろんですが、チャレンジド雇用に対する社内理解の浸透・醸成に取り組み、円滑な受け入れを実現するための「チャレンジドサポートブック」を作成しました。そこには、障がいの種類や特性、サポートのポイントなどを明記しながらも、もっとも重要なことは経営理念にある「個対個」で向き合うことであり、それぞれの特性を見極めて接する大切さを説くことも忘れていません。

「欠かせない存在になっている」と感じてもらえるケースが9割以上
―これまで、障がい者雇用の推進に対する現場の反応はいかがですか。
最初は、受け入れることに対して不安を抱えている店長も少なくないのですが、採用してみて、「職場にとてもよい影響を与えていて、欠かせない存在になっている」と感じてもらえるケースが9割以上ですね。実習が増え、チャレンジドと関わる人が増えてくることで、その評判が社内に広がっていくんですね。エリア会議などで店長同士が情報交換をするなかで、今では「うちも雇用したい!」という問い合わせが人財応援部に次々と寄せられるようになり、取り組みの成果を実感しています。
また、現場で活躍する多くのチャレンジドの方々の姿を見ると、さらに強く実感します。振り返れば、実は人財応援部に配属された当初、今でも忘れられない面接がありました。
―詳しく聞かせてください。
私が、当たり前の質問のつもりで「どのような仕事がしたいですか」とお聞きした際、その方は戸惑い、「そんなこと、言っていいんですか」とおっしゃったのです。最初、意味が分からずに理由を尋ねると、「自分は仕事を選べる立場ではなく、ただ指示されたことだけをすればいいと教えられてきたので、希望を言っていいとは思ってもいなかった」というんです。
手を差し伸べることや寄り添うことは大切ですが、本人が自分で意思決定して自己実現を目指すことは何よりも価値があることだと思います。本人が目指す姿に蓋をせず、こちらも決められた業務に当てはめることなく、相手を知るために「個対個」で向き合うという姿勢は、その後のチャレンジド雇用の推進にあたって、大事な教訓になりました。その後も同じような想いを持つ方々に出会うと、私からは「個」を大切にする当社の経営理念を伝え、パートナー(アルバイト)や時間・勤務場所に制約があっても働けるリージョナル社員でも役職が付く当社の社内制度も説明しています。
そんな方々のなかには現在、リーダーや副店長を務めている人財もいて、その成長ぶりから、我々も刺激をもらっています。
成功の鍵は「理念の浸透」と「外部の知見」
―これまでの取り組みを振り返って、成功の要因はなんだったとお考えになりますか。
第一に、社内における「経営理念の浸透」が挙げられます。チャレンジド雇用が理念に紐づいた取り組みであることを皆が理解していますので、現場の店長たちも積極的に賛同してくれました。
また、チャレンジド雇用を推進するにあたり、外部の専門家にアドバイザーとして参画していただいたことも、成功の要因の1つだったと思います。それまでは、「社内でできることは社内でやる」という当社の考えに即して、私の独学や社内での独自開発で仕組みを構築してきました。しかし、アドバイザーの参画以降は、他社の事例などからも学ぶことができ、取り組み自体の質を上げたり、再現性を持たせたりすることができるようになりました。それが、社内に広く取り組みを浸透させることができた要因だったと振り返ります。
―最後に、障がい者雇用をめぐる今後のビジョンを聞かせてください。
当社では近年、「個」の活躍を推進する経営理念に紐づくかたちで、その活躍のレベルをさらに引き上げる「個の覚醒」というテーマを掲げています。このテーマは、チャレンジド雇用においても追求すべき姿だと考えています。
法定雇用率は重要な指標ではありますが、それは果たすべき義務の1つに過ぎず、重要なのはその先にある一人ひとりの活躍であり、当社はすでにそれを追求すべきフェーズに立っていると思っています。
個々のチャレンジドが自分の可能性に蓋をせず、いかに活躍の場を広げ、持てる力を最大限に発揮できるか。その視点に立って、障壁や制約を取り除くサポートを続け、どこまでも一人ひとりにスポットライトを当てたチャレンジド雇用を推進していきたいですね。
