編集日:2026.09.28
公開日:2026.09.28
十人十色の可能性を「武器」に変える 100種類以上の業務を生んだ能力開発型雇用
社会的要請が強まる「障がい者雇用」をめぐっては、自社の企業理念に沿った特徴のある取り組みを実践し、注目される成果をあげているケースがみられる。IT大手・株式会社DTSの特例子会社であるDTSパレットもそうした企業の1社である。「十人十色」の個性を尊重し、一人ひとりの能力開発を大切にする姿勢は、2023年度の東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞(産業労働局長賞)」受賞、2024年の厚生労働省「もにす認定」※取得など、多くの評価を受けている。今回は、同社における具体的な取り組みや、その背景にある企業としての「想い」などについて取材。代表取締役社長の神田氏のほか、第一事業推進部 部長の土田氏、第二事業推進部 部長の松本氏、同部ジョブスキルトレーニング課 課長の菅野氏に詳しく聞いた。
※もにす認定:障害者雇用の取り組みが優良な中小事業主を厚生労働大臣が認定する「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度」の愛称
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株式会社DTSパレット
代表取締役社長
神田 誠(こうだ まこと)
第一事業推進部 部長
土田 航(つちだ わたる)
第二事業推進部 部長
松本 英明(まつもと ひであき)
第一事業推進部 ジョブスキルトレーニング課 課長
菅野 良博(かんの よしひろ)
専門性の高い業務も含め 100種類以上の業務を請け負う
―まずは御社の事業内容と障がい者雇用の状況から教えてください。
神田 当社は、DTSの特例子会社として、おもにDTSグループにおける事務処理の「BPO業務」、ビル管理などの「オフィスサポート業務」、印刷、デザイン加工といった「オペレーション業務」、Webサイト制作や動画撮影・編集などの「クリエイティブ業務」のほか、公益財団法人東京しごと財団からの委託を受け、就職をめざす障がいのある方向けの「障がい者委託訓練事業」の運営も行っています。
2026年8月1日現在、当社の従業員数は71名にのぼりますが、そのうち63名が障がい者となっています。

――障がい者のみなさんは、具体的にどのような業務に従事されているのですか。
土田 第一事業推進部では、「オペレーション業務」と「障がい者委託訓練事業」を管轄しており、それぞれの業務に10名程度の人員がおり、約20名の障がい者が従事しています。「オペレーション業務」のなかには、動画制作や昨年導入したUVプリンターを使った印刷も行っており、スキルを身に付けて業務の幅を広げております。
松本 第二事業推進部では、約40名の障がい者が「BPO業務」「オフィスサポート業務」「クリエイティブ業務」に従事しています。
当社全体では、すでに100種類以上の業務を請け負っています。なかには、BPO業務における「DTS本体の給与・賞与計算」のように、2年ほどの業務訓練を経てようやく切り出しに至った専門性の高い業務も請け負っており、ここでもメンバーが高いスキルを習得し、活躍してくれています。他にも、Webサイト制作やデザイン制作など、クリエイティブな発想が求められる業務において、高いスキルを発揮しているメンバーもおります。

――御社においては、高いスキルをもったメンバーが多いようですね。
神田 当社では、一人ひとりの障がいのある社員について「何ができるか」という可能性をしっかりと見出して、それを仕事につなげていく考え方を大切にしています。「今できること」だけで仕事をアサインしてしまえば、それは結果として、障がい者を選別することにつながってしまうからです。
そうではなく、業務に求められるスキルを開発し、成長を促していくことで、障がい者にとってはできることが増え、会社にとっては業務の幅が広がり、事業成長にもつながっていくのです。まさに相乗効果が生まれるわけです。
その考え方をもっともよく体現しているのが、ジョブスキルトレーニング課で展開している「10NIN+IRO(じゅうにんといろ)」という障がい者委託訓練事業です。
「それぞれのカラーを生かし、新しいカラーを創り出す」という理念
―それは、どのような事業ですか。
菅野 「10NIN+IRO」は、公益財団法人東京しごと財団様から委託される職業訓練事業で、当社の業務環境を利用して、障がい者のみなさんに提供しています。東京都内で約30の企業・機関が委託訓練事業を展開していますが、そのなかで、当社の「10NIN+IRO」の特徴は、AdobeのIllustratorやPhotoshopなどのソフトウェアを使用したデザイン制作のスキルが習得できることです。また、第一事業推進部の「オペレーション業務」では、UVプリンターの操作を通じて、紙への印刷だけでなく、プラスチックをはじめとした様々な素材への印刷も経験できます。現在は、年間20名程度を受け入れており、12日間(計60時間)のカリキュラムを受講して、それぞれのスキルを身につけてもらいます。

―事業名が非常に特徴的ですね。
菅野 事業名の「10NIN+IRO」は、「それぞれのカラーを生かし、新しいカラーを創り出す」という当社の理念から発想し、「十人十色」から命名したものです。障がい者の状態はそれぞれに異なり、10人いれば10通りの特色があります。そうした多様な人たちが集まって仕事をすることで、新しい価値が生まれるのではないかと考えたわけです。
神田 その発想は、まさに当社発足時の理念と重なるものです。社名であるDTSパレットの「パレット」とは、いろいろな色の絵具がそこに載るというだけでなく、それらの色が混ざり合うことで新しい色が生まれる基盤ともなるものです。当社も、障がいのある社員がさまざまな経験を重ね、それぞれの可能性を引き出すことを追求できる会社でありたいとの願いから、現在の社名が生まれた経緯があります。
―そうした理念のもとで、実際に「10NIN+IRO」では、どのような育成事例が生まれていますか。
菅野 カリキュラムでは、講師の多くを障がいのある社員が務めており、各分野の社員が専門性を生かしながらサポートし、訓練生が安心して受講できる体制を整えています。障がいのある社員が講師として働く姿は、訓練生が自身の働く姿を具体的にイメージするきっかけになるとともに、講師を務める社員自身のやりがいや成長にもつながっています。都内の委託訓練事業所の中でもデザインソフトを実務環境で学べる訓練機関は限られているので、当社での訓練は訓練生にとって貴重な学びの機会になっていると考えています。
実際に、卒業した訓練生から「無事に就職できました」「学んだことが役立っています」といったお手紙をいただくと、「この事業をやっていてよかった」と実感しますね。
神田 これは「10NIN+IRO」に限った話ではありませんが、障がい者の職業訓練を行ったり、障がい者とともに働いたりすることは、我々にとっても新たな「気づき」につながり、会社として成長させてもらっています。
「できると思ったら、まずやってみる」登用に障がいの有無は関係ない
―そうしたスキル開発は、DTSパレット社内においても実践されているのですか。
土田 はい。当社では、学ぶ意欲のあるメンバーには、積極的にその機会を提供しています。たとえば当社はAdobeの有償ライセンスを契約しているので、Adobe製品を学べる公式オンラインスクール「アドビことはじめ クリエイティブカレッジ」を、希望する社員は誰でも受講できます。
また、RPAのロボット開発やVBAを使ったツール開発などの研修については、eラーニングの機会も提供しています。

松本 こうして経験を積んでいった先には、本人の意向と能力次第で、サブリーダー、リーダー、課長、部長とキャリアアップしていける道を開いています。
―実際に、役職を任されている障がい者の方々もいらっしゃるのですか。
神田 現時点ではリーダーやサブリーダーを任せている障がい者のメンバーはいます。登用にあたっては「できると思ったら、まずやってみる」という考え方であり、そこに障がいのあるなしで区別は必要ないと思っています。
また、当社は業務のローテーションがとても多いです。メンバーが大幅に異動する比較的規模の大きな部署異動も年に1度は行われています。それも、さまざまな経験を重ねてもらいたいとの育成方針が受け継がれてきた結果の社内制度といえます。
―障がい者雇用をめぐっては、ジョブチェンジや環境変化はハードルが高いと考える向きもありますね。
松本 確かにハードルはあります。だからこそ当社では、メンバーとのコミュニケーションを非常に大切にしています。月1回の「定期ヒアリング」を基本に、いつでも相談ができる「臨時ヒアリング」や「専用の電話相談窓口」を用意しています。また社内には、「障害者職業生活相談員」の資格を有するメンバーが十数名いますので、ヒアリングにおいては、1人のメンバーに2人の相談員が同席する体制で、仕事面の悩みだけではなく、生活面での困りごとまで話を聞いて寄り添い、指導しています。
土田 コミュニケーションを大切にするのは、一つひとつの業務においても同様です。顧客からの要望を落とし込んだり、納期の調整を図ったり、折々に打ち合わせの機会を設けています。そこでは毎回、必ず議事録を取るようにしているのですが、あるWebサイト制作の業務では、1年間で98回もの議事録が残っていたケースもありました。週2回ほどのペースでミーティングを重ねていた計算になりますね。相談の仕組みはもちろん大切ですが、業務のなかで本人の率直な意見や素の姿が出る場を日常的に持つことも、大切なことだと思っています。
―最後に、障がい者雇用における今後の目標、ビジョンを聞かせてください。
神田 当社はIT企業の特例子会社として、ITやAIには障がい者の可能性を広げる力があると強く感じています。AIの登場で障がい者の仕事がなくなるかといえば、そうではなく、むしろAIの活用で障がい者ができることをもっと広げていけると思っています。一人ひとりがカラーを生かして生き抜いていくための「武器」を、このDTSパレットで身につけてもらいたいのです。気づけば「私は、これができます」と胸を張れるものが1つずつ増えている、そんな会社でありたいと思っています。
