編集日:2026.09.09
公開日:2026.09.09
地域に根差す生活協同組合が35年続けてきた長く安定して働ける環境づくり
民間企業の法定雇用率は2026年7月、2.5%から2.7%へ引き上げられた。障がい者雇用では、採用に加えて長く働き続けられる環境づくりが一層問われている。そうしたなか、すでに35年以上の実績を誇り、この分野における先達として多くの企業から注目されているのが、生活協同組合パルシステム東京だ。2021年度に東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞(東京都知事賞)」、2024年度に「障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰」を受賞している。障がいのある職員の離職率は低く、30年以上勤続する職員もいるという。地域に根差した事業を展開する同組合では、どのような想いをもって障がい者雇用に取り組んでいるのか。人事部の平野氏、青梅センターの駒﨑センター長、石田供給長に、詳しく聞いた。
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生活協同組合パルシステム東京
人事部 人事・育成課 課長
障害者職業生活相談員
平野 裕(ひらの ゆたか)
青梅センター センター長
駒﨑 剛(こまざき つよし)
青梅センター 供給長
石田 重徳(いしだ しげのり)
長期に安定した雇用を確保 30年以上勤務する女性も
―まずは組合の事業内容と障がい者雇用の実績からご紹介ください。
平野 生活協同組合として、事業では生活に関するものはなんでも取り扱っています。パルシステム事業としては、安全・安心な産直食材や日用品の宅配を行っているほか、福祉事業としては地域に根差した介護・保育などのサービスを展開しています。
当組合の障がい者雇用は、1990年頃に始まり、35年以上が経ちました。都内各地に18ヶ所の配送センターを構えており、そこで34名(2026年8月現在)の障がい者を雇用しています。実雇用率は組合全体で4.05%(同)に達しています。

なかでもこの青梅センターでは、2名の障がい者が働いており、そのうちの1人は30年以上勤務する女性です。長期にわたって、安定して働いてもらうことを大切に考える当組合の方針を体現する象徴的な配送センターの1つといえます。組合全体を見ても幅広い年代が働けている環境に加え、職場実習の受け入れやジョブコーチの活用、支援機関との継続的な連携が評価され、2021年度(令和3年度)には東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞(東京都知事賞)」を、2024年度(令和6年度)には「障害者雇用優良事業所 厚生労働大臣表彰」を、それぞれいただきました。
―障がい者のみなさんは、実際にどのような業務に従事しているのでしょう。
駒﨑 当組合では、雇用する障がい者の9割が主力の食材配送業務を支える倉庫業務に従事しています。具体的には、配送時に食材を冷やす蓄冷剤、いわゆる保冷剤の洗浄や庫内での商品の仕分け、倉庫内の片付けのほか、商品のセッティングといった、定型的な作業ではありますが、配送品質を支える重要な業務を担ってくれています。一部には、ドライバー助手として、トラックの助手席に乗り、配送先への納品に同行する職員もいます。

障がい者の事情に合わせて業務内容の見直しも実施
―パルシステム東京さんにおける障がい者雇用の成果は、やはり長く働き続けている方の多さに表れていると思います。そこでは、特に心がけていることはありますか。
駒﨑 前提として、一人ひとりを尊重し、必要な配慮はしたうえで、本人の力を信じて仕事を任せる姿勢を大事にしています。基本は「決めた業務はやり切ってもらう」という考え方です。
一方で、仕事の進め方に手を出さないぶん、体調の確認は別です。障がいのある職員は一人ひとり特性が異なるということを意識の中心に置き、私や石田供給長をはじめ、責任ある立場の者が必ず1日に数回は直接顔を見て様子を確認することを徹底しています。
たとえば、障がい者のなかには意思表示が難しい人もおり、「体調が優れないこと」を伝えられない人もいます。特に夏場の仕事では、組合側として水分補給など暑さ対策の準備をしていても、それをちゃんと利用しているのか、目の前で直接確認することは怠らないようにしています。

石田 また当組合では、先ほど平野からも申し上げた通り、長期にわたって安定して働いてもらうことを大切にしています。それは、障がい者ご本人はもとより、ご家族にとっても、「長期の安定した雇用」というのがなによりも強い希望であるからです。その結果、当組合には30年近くも勤務し、50代を迎えた障がい者も数人います。そうなると、体力や集中力に変化が生じて、これまでと同じ仕事を続けるのが難しくなるケースも出てきます。そうしたケースでは、一人ひとりの事情や特性に合わせて、ジョブチェンジも実施しています。
―障がい者のジョブチェンジは、非常にハードルの高いことだと聞きますが、そこではどのような配慮をしているのですか。
石田 確かに障がい者のジョブチェンジは、本人だけの問題ではなく、家庭やグループホームでの生活、サポートのあり方にも影響が出かねません。そのため、まずは職務変更の目的や内容をご本人に丁寧に説明し、意思を確認します。そのうえでご本人の同意を得て、ご家族や支援機関とも情報を共有し、生活面への影響も含めて支援体制を整えるようにしています。
そのうえで、支援機関に所属するジョブコーチ(職場適応援助者)と連携し、新しい仕事を身につけてもらう取り組みも行っています。

駒﨑 たとえば青梅センターでは、先ほど話に出た女性は蓄冷剤の洗浄作業に従事していましたが、年齢を重ねるなかで、体力の変化とともに重量がある蓄冷剤を終日扱うのが難しくなってきました。そこで、ジョブコーチを入れて、1ヶ月ほど室内清掃の作業を研修してもらい、ご本人の意思と作業の出来栄えを確認したうえで、午後の勤務は清掃作業に従事してもらうことに変更したのです。それ以降、本人は安心とやりがいを感じながら仕事に集中しているようで、定期的に入る清掃の専門業者からも評価されるほどの成果を見せてくれています。
長く働き続けられる理由は「職場の理解」
―パルシステム東京さんでは、長く働き続けてもらうために、採用においても何か行っている取り組みはありますか。
平野 採用は、基本的に各配送センターで異動などによる欠員や増員の必要が生じた際に行っているのですが、必ず2週間の現場実習を用意しています。そのほか、一部の配送センターでは、地域の特別支援学校からのご要望を受けて、職業体験や見学会を行っており、職場の作業を知ってもらう努力もしています。
また、当組合の方針として、採用にあたっては、障がい者のみなさんには必ず近隣の「障がい者支援機関」に登録してもらうようにしています。当組合では、勤続年数が長期にわたることが多く、その場合は当然ながら障がい者本人のみならず、親御さんたちも高齢になり、場合によっては亡くなってしまうこともあります。その時の生活サポートも視野に入れて、支援機関との連携は重視しています。
採用後も少なくとも、年に1度は各配送センターの管理職と人事担当者が、支援機関の担当者との振り返り面談を行っていますし、配送センターの幹部に人事異動がある際も、必ず支援機関との間で引き継ぎのための面談を設けています。先ほどお話しした「ジョブコーチの活用」などもそうした関係性が生かされた取り組みといえるかもしれません。
とはいえ、当組合としては、採用に限らず、障がい者雇用においては特別な取り組みをしている意識はなく、当たり前のことを実践しているに過ぎないと思っています。

―だとするならば、パルシステム東京さんが長く働き続けられる職場でいられる秘訣は、どこにあるのでしょう。
平野 仕組みや制度も整えてきましたが、それが機能しているのは「職場の理解」があるからだと思います。そこが一番のポイントです。各配送センターで、センター長や供給長といった責任者が意識高く、働く障がい者に対して細かな配慮を心掛けています。
駒﨑 それはパルシステム東京が持つ「組織風土」にほかならないと思っています。我々管理者だけではなく、各メンバーの間にも、仲間である障がい者に対する配慮や関心が行き渡っていると感じることが多いです。時には、現場のメンバーから「顔色がすぐれないけど、大丈夫でしょうか?」とか、「あの作業は、つらくないでしょうか?」といった進言を受けることもあるほどです。我々としても折々に、マネジメント方針や取り組みの意図など必要な情報をこまめに説明するようにしていますが、それが職場全体に理解や配慮が広がる一助になっているのかもしれません。
―最後に、障がい者雇用における今後の目標、ビジョンを聞かせてください。
駒﨑 一人ひとりの希望を尊重し、体調の変化を丁寧に把握していくこと、そしてそれに合わせた仕事をいかに用意し、安心して力を発揮できる業務手順を設計できるかは、これからも課題であり続けると思います。今いる34名の障がい者雇用職員も全員、特性が異なりますし、今後新しく採用されてくる方々もいるでしょう。きっと終わりのない課題といっていいかもしれません。そこは組織全体として、コツコツと日々の配慮を重ねていく覚悟です。
現在も日々模索を続けている最中であり、場合によっては、業務工程を見直し、障がいのある職員が力を発揮できる仕事としてあえて切り出し、担ってもらっているケースもあります。それができるのも、組織内に障がい者雇用に対する理解が醸成されているからだと思います。
この組織風土を守りながら、今後も年を重ねていく一人ひとりの障がい者雇用職員に、年齢変化に応じた活躍の場を確保し続けていきたいと思っています。
