編集日:2026.07.28
公開日:2026.07.28
グループの「戦力」として障がい者を位置づけめざすは「日本一の特例子会社」
誰もが職業を通じた社会参加のできる「共生社会」実現に向け、2026年7月1日、民間企業の法定雇用率は2.5%から2.7%に引き上げられた。これに伴い、障がい者を1人以上雇用する義務の対象は、常用雇用労働者37.5人以上の事業主に広がり、「障がい者雇用」に向き合う責任がこれまで以上に強く求められている。そうしたなか、この社会的な要請に向き合い、現在グループをあげて障がい者雇用に力を入れているのが、大手不動産会社オープンハウスグループである。2024年9月に設立され、同年10月に特例子会社の認定を受けたオープンハウス・オペレーションズでは、従業員の約80%(2026年6月時点)が障がいをもつメンバーであり、過去3年間に採用した障がいのある社員の入社後1年間の定着率は95.7%。グループの障がい者雇用率は、2026年6月1日時点で3.16%に達している。この高い水準の障がい者雇用は、いかにして実現しているのか。同社の障がい者雇用の取り組みを統括する、取締役の市川氏に詳しく聞いた。
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株式会社オープンハウス・オペレーションズ
取締役 市川 友和(いちかわ ともかず)
「数合わせの障がい者雇用を行うつもりはまったくない」
―オープンハウスグループが、障がい者雇用に本気で向き合うようになった経緯を振り返っていただけますか。
不動産会社として「日本一」をめざすことを掲げてきた当社グループでは、企業規模の拡大とともに、これまで以上に社会的責任を意識するようになりました。そのための方策の1つとして、力を入れてきたのが障がい者雇用の強化でした。2022年前後は、障がい者雇用の取り組みの転機となっており、障がい者雇用事業の専任として私がオープンハウスグループに入社したのも、2022年1月でした。当時、採用面接でお会いしたグループ代表は、「数合わせの障がい者雇用を行うつもりはまったくない」と語ってくれており、その熱意と本気度がその後の取り組みの推進力になっていきました。
具体的に、それまで外部企業が運営するサテライトオフィスに委託してきた障がい者雇用は、2022年6月から完全自社採用・完全自社オペレーション化に移行。2024年9月にはグループ内の事務業務を引き受ける当社を設立し、障がい者雇用をさらに強化するとともに、生産性向上にも注力してきました。同年10月には特例子会社の認定を取得しました。また、グループの障がい者雇用の取り組みが評価され、株式会社オープンハウスが東京都「障害者雇用エクセレントカンパニー賞(東京都知事賞)」を受賞しました。

―現在の障がい者雇用の状況を教えてください。
横浜(神奈川県)、八王子(東京都)、柏(千葉県)の3拠点で2026年6月現在、従業員数は168名で、このうち132名が障がいのある社員です。障がいの内訳は、精神・精神・発達障がいが約74%、身体障がいが約24%、知的障がいが約2%です。体調の波などから勤怠が不安定になるケースや休職者も一定数いますが、入社後1年間の定着率は95.7%と高い水準を維持しており、離職者は少ないです。
同時に、事業の成長に合わせて、新規採用にも継続的に力を入れています。法定雇用率のさらなる引き上げも見据え、グループ全体の障がい者雇用率を継続的に3.0%以上とすることを目標に、毎年20名以上の新規採用を続けており、2026年度からは新卒採用も始めています。
採用にあたっては、障がいの種別だけで一律に判断することはありません。重視しているのは、「自己理解」「他者理解」「コミュニケーション」の3点です。まずは、自身の障がいに対する深い理解があるか。そして、周囲の障がい者に対しても配慮できるか、そして適切に自ら必要な報告や相談ができるか、そういった点を重視して採用を行っています。

8名の有資格者が、メンバーの状態をこまめに把握
―3.0%を超える高い雇用率を維持するうえで、業務の「切り出し」はどのように行っているのでしょう。
実は、業務の「切り出し」については、あまり苦労していないというのが実際のところです。というのも、当社グループでは、働き方改革の推進や、営業人材の生産性向上に対する意識が浸透していることもあり、営業人材が負担になっている業務があれば、積極的に当社に業務移管する文化が徐々に定着してきているためです。グループ内には異動が頻繁にあるので、新たな異動先で当社への移管を「社内営業」してくれる方々も最近では増えてきました。
結果、現在ではおもにグループの営業部門と間接部門を中心に150種類の業務を3拠点で請け負っています。なお、新規の業務を依頼されたときは、その業務の工数・難易度・納期の3点を意識しながら、どの拠点で請け負うかを決定しています。
当社に業務を切り出してくれる「移管元」との良好な信頼関係が保てるように、年に1回、「移管元アンケート」を実施し、業務への評価や不満を確認するなど、情報のキャッチボールは欠かさず行うようにしています。
―雇用率とともに、定着率の高さも注目されています。障がい者のみなさんが、いきいきと活躍できる環境をつくるために、どのような取り組みを行っていますか。
環境づくりとして、一番重要だと思っているのが、専門資格を持つスタッフによる常駐サポートです。精神保健福祉士や臨床心理士、公認心理師といった有資格者が当社には計8名おり、横浜に4名、八王子に2名、柏に1名が常駐しています。このサポートスタッフが、入社間もないメンバーなら毎週、現場に慣れるにつれて隔週や月1回といった間隔で定期面談を行い、丁寧にメンバーの状態を把握しています。
それだけではなく、メンバーには毎日、「ヘルスログ」として、食事や睡眠、服薬といった日々の生活状況を記入してもらっており、この内容も毎日チェックし、各自の状態の把握に活かしています。メンバーからの要望や、サポートスタッフから声かけをし、定期面談とは別に面談を行うこともあります。そのほか、お昼休みのほかに「1日10分×3回の小休憩」や、ひと月あたり半日分の「障がいに関わる特別休暇」を有給扱いで設け、メンバーの働く環境を整えています。

周囲のメンバーへの「ありがとう」を形に。月に一度とりまとめ、朝礼時に手渡し
ちょうどよいバランスを模索し、日々制度運用をチューニング
―これらの制度を運用する際に、特に心がけていることはありますか。
いくら制度を整えたところで、勤怠の不安定や休職者などは、「必ず一定程度は発生する」という認識をもって業務プランを立てています。ですから、業務量も全員が良好な状態を100とすると、常に80~85程度で設定し、メンバーに負荷をかけすぎないように配慮しています。
また、当社では、業務リーダーや課責任者(マネージャー)といった管理職は、基本的に障がいのあるメンバーが担っています。頑張れば「昇格や昇進できる」という状態がモチベーションにつながると考えるからです。原則、メンバーは契約社員として入社しますが、2年間の安定したフルタイム勤務を経ると、正社員に登用される道が用意されているのも同様の考えからです。こうした評価の仕組みも、高い定着率の一助になっているのではないかと思っています。
―個々に必要な合理的配慮を行いながら、評価基準への納得感や一貫性を保つことには難しさもあると思います。
確かに、そのバランスのとり方は難しいです。当社は福祉施設ではありませんので、個々に必要な配慮を行いながら、企業として実績や成果を適切に評価する必要があります。そこに明確な答えなどはなく、ちょうどよいバランスを模索しながら、日々制度運用のチューニングを行っていくしかないと思っています。
ただし、その際に重要なのは、いろいろな角度からの情報を加味すること、そしてできるだけ多くの人間の目線を入れることだと思っています。評価者は個々のメンバーのすべてを把握しているわけではありませんので、見方がどこか偏ると、それは必ず不満につながってしまいますから。

評価をする側が「偉い人」であってはいけない
―実際に制度や運用をチューニングしていった例があれば、教えてください。
たとえば、かつて評価は私一人で行っていましたが、現在ではかなりの部分をマネージャーやグループ長といった現場責任者に権限移譲を進めました。また、勤怠実績や業務成果といった定量的な数値に関しても、サポートスタッフや現場責任者による「現場の声」を掛け合わせて読み解くようにあらためています。数字には表れてこない要素や影響もあり、そこまで拾って評価につなげたいと思うからです。
また現在では、全体として昇給率5%という数字は意識するようになりました。評価によって、たとえ昇給額が低かった人がいても、「会社としては上げようとしている」「決して上がらない環境ではない」という会社の姿勢を理解してもらい、評価への納得感や未来へのモチベーションを持ってもらうためです。
一方で、昇進・昇格後に期待した成果が得られなかった場合でも、原則として降格させるのではなく、本人の適性を踏まえた配置転換によって別のキャリアを用意しています。そこで失敗したとしても、人としての価値が下がるわけでは決してありませんから。逆に、昇進したから偉いわけでもありませんし、我々評価をする側も「偉い人」であってはいけないと思っています。

―その考えは、いただいた参考資料「組織の考え」にも表れていました。上位役職者がもっとも下に位置する逆三角形で組織構造が示されていたのが、とても印象的でした。
仮に我々が、「我々が評価しているんだ」という尊大な態度を見せてしまった途端に、メンバーは何も言えなくなってしまいますよね。職場に、心理的安全性もなくなってしまいます。我々もメンバーも役割に違いがあったとしても、それは人間としての価値が高いわけでも低いわけでもありません。そのことは、昇進したメンバーにも伝えていることです。
特例子会社の責任者が現場への理解を欠き、「本社から来た偉い人」という立場で振舞っていたら、メンバーやサポートスタッフが意見を言いにくくなります。そうした状態では、現場運営はうまく機能しないと考えています。
―最後に、今後の会社の運営ビジョンを聞かせてください。
オープンハウスグループの目標が、「日本一の総合不動産企業」ですから、そこに属する当社も明確に「日本一の特例子会社」を目標にしたいと思っています。「日本一」とはなにかと問われれば、雇用人数や雇用率、定着率など具体的な指標はさまざまあるとは思いますが、そのどれか1つの指標を追いかけるつもりはありません。「数字を作る」だけならば、それは簡単なことですが、それでは本質とはズレてしまいますし、志高く発足したこの会社の理念に反します。あえていえば、すべての指標で当社のレベルを上げ、「障がい者雇用」といえば当社の名前が真っ先に想起されるような会社になりたいですね。
