障害者雇用を推進する上で、発達障害への理解は欠かせません。近年、発達障害と診断される件数が増加傾向にあり、職場でも発達障害のある社員と接する機会が増えています。その一方で、なぜ発達障害が増えているのか、どのような特性があるのかを正確に把握できていない担当者も多いのではないでしょうか。今回は、発達障害の増加の背景や主な特性、職場における適切な接し方について解説します。
発達障害者の増加に関する実態

発達障害と診断される件数は、近年増加傾向にあります。
内閣府の調査によると、大部分の授業を通常の学級で受けながら、一部の時間で障害に応じた教育を実施する「通級」による指導を受けている児童数は、2014年度の8.4万人から2024年度に19.6万人へと、この10年間で2倍以上に増加しました。
通級による指導の対象には発達障害以外も含まれますが、LD・ADHD・自閉症等の割合が大きく、発達障害に関連する教育・支援ニーズの高まりを示す一つの指標と考えられます。障害者雇用を検討する企業にとって、発達障害の実態を正しく理解することは今後ますます重要になるでしょう。
出典:内閣府「令和7年版 障害者白書」
発達障害が増えている背景

発達障害の診断件数が増加している背景には、複数の要因が絡み合っています。ここでは、大きく2つの観点からその背景を解説します。
診断技術の変化
発達障害の診断件数が増えた理由の一つは、診断技術そのものが進歩したことです。かつては診断基準が曖昧だったため、見逃されていたケースが少なくありませんでした。
しかし近年は、診断基準の整備や診断手法の高度化により、以前なら「少し変わった人」と見なされていた人が発達障害として診断されるケースが増えています。
また、発達障害に関する社会的な認知度が高まり、本人や周囲が「もしかして発達障害では?」と気づきやすくなったことも、診断数の増加に寄与しています。つまり、発達障害そのものが増えたというよりも、これまで見過ごされていた特性が把握されやすくなったという側面が大きいと言えます。
社会・環境要因の変化
社会環境の変化も、発達障害のある人が「増えている」と感じられる要因の一つです。
現代の職場や日常生活では、以前と比べてコミュニケーション能力や情報処理速度など、幅広いスキルが求められるようになっています。そのため、これまでは問題とされていなかった特性が、社会生活の場面で「課題」として顕在化しやすくなっています。
さらに、社会や情報環境の変化により、特性が生活上の困りごととして認識されやすくなったとの指摘もあります。
こうした複合的な背景が重なり、発達障害への関心と診断数が増加していると考えられます。
発達障害の特徴

発達障害にはいくつかの種類があり、それぞれ特性が異なります。ここでは、職場で関わる可能性の高い主な3種類について解説します。
ADHD(注意欠如・多動症)
ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つを主な特性とする発達障害です。子どもの頃は落ち着きのなさや衝動的な行動が目立ちますが、大人になっても形を変えながら特性が現れる場合があります。
職場では、段取りを忘れやすい、複数のタスクを並行して進めることに負担を感じる、興味や関心の高い業務には強い集中力を発揮する一方で、そうでない業務ではパフォーマンスに差が生じるといった傾向が見られることがあります。
また、感情のコントロールに難しさを感じる場合があり、周囲とのコミュニケーションで行き違いが生じることもあります。ADHDの特性を理解した上で、業務の進め方やサポート体制を整えることが大切です。
ASD(自閉スペクトラム症)
ASDの主な特性として、対人関係におけるコミュニケーションの特性、こだわりの強さ、感覚過敏・感覚鈍麻などが挙げられます。
以前は「自閉症」「アスペルガー症候群」「広汎性発達障害」などと分類されていましたが、現在はDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)によって「自閉スペクトラム症(ASD)」に統一されています。
職場では、場の状況や暗黙のルールを読み取ることに負担を感じる場合があります。また、予定外の変更や突発的な出来事に対して強いストレスを感じることもあります。
一方で、特定の分野において高い集中力や専門性を発揮することも少なくありません。本人の特性に応じた環境調整やサポートによって、強みを活かしながら能力を発揮できる場合があります。
LD(学習障害)
LDは、知的発達には大きな遅れがないにもかかわらず、「読む」「書く」「計算する」といった学習面の一部に著しい困難が見られる状態です。外見からはわかりにくいため、周囲に特性が理解されにくく、努力不足と誤解されることがあります。
大人のLDでは、書類作成に時間がかかる、長文メールや資料を読み込むことに手間取る、計算を伴う業務で困難が生じるといった形で職場に影響が出ることがあります。
業務の種類によって得意・不得意に差が生じるため、本人の特性を把握した上で業務内容や進め方を調整することが重要です。
職場における発達障害者との適切な接し方
発達障害のある社員との接し方を工夫することで、本人のパフォーマンスを高め、職場全体の生産性向上にもつながります。ここでは、具体的な対応方法を4つ紹介します。
具体的に指示を出す
「なるべく早く」「適当に」といった曖昧な表現は、発達障害のある方には伝わりにくいことがあります。指示を出す際は、「〇時までに」「〇〇のフォーマットで」など、具体的かつ明確な言葉を使うことが基本です。
また、一度に複数の指示を出すことも混乱の原因になります。「まずAをやって、終わったらBに進む」と順序立てて一つずつ丁寧に伝えることで、業務をスムーズに進めてもらいやすくなります。
情報を可視化できるツールを活用する
発達障害のある方は、口頭での説明だけでは情報を整理しにくいことがあります。ToDoリストやスケジュールボード、業務マニュアルなど、情報を視覚的に確認できるツールを活用することが効果的です。
デジタル環境においても、タスク管理アプリやプロジェクト管理ツールを活用することで、作業の優先順位や進捗を本人が自分で管理しやすくなります。ツールの導入は、発達障害のある社員だけでなく、チーム全体の業務効率化にもつながります。
業務内容を調整する
同じミスが繰り返される場合、その業務が本人の特性に合っていない可能性があります。まずは業務の適性を見直し、より得意な分野に担当を変えることを検討してください。
「複数の業務を体験してもらい、得意なことを見つける」というアプローチも有効です。特定の業務で高い集中力を発揮できる社員も多いため、適性に合った業務を見つけることが、本人の成長と職場定着につながります。
職場のルールを明文化する
発達障害のある方は、職場の暗黙のルールや慣習を自然に読み取ることが苦手なことがあります。報告・連絡・相談のタイミングや、座席での過ごし方や休憩の取り方など、日常業務のなかで当たり前とされていることを言葉で明示することが重要です。
ルールを共有する際は、本人にも確認しながら進めることが大切です。本人と職場の双方にとって働きやすい関わり方を一緒に考えることで、不要なトラブルや誤解を未然に防ぎ、信頼関係を築くことができます。
まとめ
発達障害の診断件数が増加している背景には、診断技術の進歩や社会環境の変化があります。発達障害はADHD・ASD・LDなど種類によって特性が異なるため、個々の特性を正しく理解することが職場での適切なサポートにつながります。指示の出し方や情報の見せ方、業務内容の調整、ルールの明文化といった工夫を積み重ねることで、発達障害のある社員が本来の力を発揮できる環境を整えることができます。障害者雇用を進めるにあたっては、まず発達障害への理解を深め、一人ひとりに合ったサポートを実践していきましょう。
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めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。