障害者雇用の義務を果たせない企業が最終的に直面するのが、「企業名公表」という措置です。法定雇用率の達成が進まず、行政からの指導を繰り返しても改善が見られない場合、厚生労働省の公式サイトに社名が公表されることがあります。企業名公表は一種の罰則にとどまらず、採用活動・社内士気・事業取引に至るまで幅広い影響を及ぼします。
今回は、企業名公表に至るまでの流れとリスク、そして公表を回避するための具体的な対策を詳しく解説します。
法定雇用率未達成で社名が公表されるまでの流れ

障害者雇用の法定雇用率が未達成の場合、すぐに企業名が公表されるわけではありません。公表に至るまでには段階的な行政指導のプロセスがあり、その間に改善できれば公表を回避することも可能です。
なお、民間企業の法定雇用率は2026年7月に2.7%に引き上げられる予定です。
ここでは、公表に至るまでの流れについて解説します。
1. 障害者雇用状況の報告(毎年6月)
従業員規模が40人以上の事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用の状況をハローワークに報告する義務があります。
厚生労働省が定める記入要領に沿って、同年7月15日までに「障害者雇用状況報告書」を作成・提出します。
この報告書をもとに、法定雇用率を達成しているかどうかが確認されます。
2. 障害者雇入れ計画作成命令(2年計画)
法定雇用率を達成していない企業のうち、以下のいずれかに該当する場合、ハローワークから「雇入れ計画書の作成命令」が発出される可能性が高まります。
- 実雇用率が全国平均実雇用率未満、かつ不足数が5人以上
- 不足数が10人以上
- 法定雇用障害者数が3人または4人で、雇用障害者数が0人
命令が発出されると、翌年1月を始期とする2年間の「雇入れ計画」を作成する必要があります。この計画は形式的な書類にとどまらず、計画の達成状況が継続的に審査されます。
3. 雇入れ計画の適正実施勧告
計画1年目の12月に、計画の実施状況が芳しくない企業に対して、雇入れ計画の適正な実施を促す勧告が行われます。
この段階でもまだ改善の機会が与えられますが、対応を怠ると次のステップへ進みます。
4. 特別指導(9か月間)
雇用状況の改善が特に遅れている企業に対し、計画期間終了後に9か月間、公表を前提とした特別指導が実施されます。不足数が特に多い企業については、厚生労働省本省による直接指導も行われます。
企業の幹部が直接指導を受けるケースもあり、経営トップへの影響も避けられません。
5. 企業名の公表
改善が認められない場合、厚生労働省の公式サイト上で会社名が公表されることがあります。公表の際は企業名・所在地・代表者名・事業内容に加え、指導の経過も詳細に開示されます。
公表後も指導は継続され、改善が見られない場合は「再公表」されることもあります。
出典:
厚生労働省「障害者雇用状況報告書及び記入要領等」
厚生労働省「障害者雇用率達成指導の流れ」
厚生労働省「第98回労働政策審議会障害者雇用分科会(資料)」
企業名が公表されるリスク

企業名公表はペナルティの範囲にとどまらず、ビジネス全体に深刻な影響を及ぼします。ここでは、主なリスクを4つ解説します。
企業イメージ・社会的信用への深刻なダメージ
企業名が公表されると、その情報はインターネット上に拡散され、半永久的に残り続けます。
障害者雇用という社会的責任を果たせない企業として広く知られることになり、顧客・取引先・投資家といったステークホルダーからの信用を失うことになりかねません。
失った信頼を取り戻すには、多大なコストと長い時間が必要になります。
採用活動への悪影響
就職活動や転職活動を行う求職者の多くは、企業研究の段階でインターネットを活用して情報収集します。
「障害者雇用の義務違反」として検索にヒットすれば、応募者に強い悪印象を与え、応募を敬遠させる可能性が高くなります。
優秀な人材の確保が困難になるだけでなく、採用コストや人員計画にも影響が及び、障害者雇用納付金の徴収以上の経営リスクにつながることもあります。
従業員のモチベーション低下
自社が障害者雇用の未達成企業として名指しされることは、「自社に対する誇り」や「帰属意識」の低下を招き、仕事へのモチベーションにも影響するおそれがあります。
なかには家族や知人に障害のある従業員もおり、そうした人たちが会社への不信感を抱くきっかけにもなりかねません。
帰属意識の低下は組織の一体感を損ない、生産性の低下や優秀な人材の離職・流出につながるおそれもあります。
経営・財務・事業取引面での影響
企業名公表に至る前の段階から、法定雇用率の不足人数1人につき月額5万円(年間60万円)の障害者雇用納付金が徴収され続けます(常時雇用労働者100人超の企業が対象)。
加えて、入札参加の条件に法定雇用率の達成を求める自治体も多く、公共事業の入札から除外されるリスクがあります。
また、企業の評判や信用に関わる情報がWeb上に残ることで、取引先企業との関係にも長期的な悪影響が及ぶ可能性があります。
出典:
独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要/2 障害者雇用納付金の納付」
総務省「地方公共団体の入札参加資格審査申請の共通化・デジタル化について」
障害者雇用で企業名公表を回避するための対策

法定雇用率を達成し、企業名の公表を回避するためには、計画的かつ継続的な取り組みが欠かせません。ここでは、主な対策を紹介します。
中長期的な障害者雇用計画を立てる
まず、「いつまでに」「何人」の障害者を雇用する必要があるかを明確にし、中長期的な採用計画を策定しましょう。法定雇用率達成に向けたロードマップの策定が、安定した雇用推進の第一歩となります。
数値目標と採用スケジュールを組み合わせた計画表を作成すると、より実行性が高まります。
適切な業務切り出しを行う
障害特性に応じた業務設計が重要です。既存業務を見直し、障害のある方が無理なく取り組める業務を切り出しましょう。
業務内容や作業量、手順を明確にすることで、能力を十分に発揮できる環境を整えられます。
支援機関を活用する
ハローワークをはじめとする専門的な知見を持つ支援機関に、採用計画の段階から相談することをおすすめします。自社だけで対応しようとせず、専門機関の知見やネットワークを活用することが、新たな雇用の創出につながります。
また、地域障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターとの連携も有効です。これらの機関は採用後のフォローアップにも対応しており、定着支援の面でも心強い存在です。
社内理解とサポート体制を構築する
社内研修やセミナーを通じて、障害への理解や障害者雇用の目的・意義を社内に浸透させましょう。
定期面談や外部支援機関との連携を通じ、障害のある従業員の変化に早期に気づく体制が、定着率向上のカギです。
管理職だけでなく、現場の従業員も含めた理解促進が、誰もが働きやすいと感じられる職場づくりにつながります。
柔軟な働き方を提供する
フレックスタイム制やリモートワーク、短時間勤務など多様な働き方を取り入れましょう。
通院のための休暇取得や休憩スペースの確保など、個々の状況に配慮した環境整備は、職場への定着を促進する上で重要です。
まとめ
障害者雇用の企業名公表は、社会的信用・採用活動・経営面に深刻なダメージをもたらします。段階的な行政指導が始まった時点で、速やかに改善行動を取ることが重要です。自社だけでの対応が難しい場合は、民間の障害者雇用支援サービスの活用も有効な選択肢です。
農園型障害者雇用サービス「めぐるファーム」では、法定雇用率の達成に向けたサポートを行っています。農園での軽作業を中心とした業務設計により、障害者の方が無理なく働ける環境を提供し、企業様の雇用率達成と定着支援を実現します。
障害者雇用を検討している企業様は、ぜひお気軽にご相談ください。
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著者プロフィール
めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。