発達障害のある社員に口頭や文書で業務指示を出した際、意図した内容が十分に伝わりにくい場面が職場で見られることがあります。「なぜ認識のズレが起こってしまうのか」「どこから改善すべきか迷っている」と感じる担当者も多いのではないでしょうか。こうした背景には、本人の理解力の問題ではなく、情報の受け取り方や整理の仕方、指示の伝え方との相性が関係している場合があります。
今回は、発達障害のある方に指示が伝わりにくくなる主な要因や、認識のズレによって起こりやすい課題、そして適切な指示の出し方・伝え方のポイントを詳しく解説します。
発達障害のある方に指示が伝わりにくい原因

発達障害のある方に指示が伝わりにくい背景には、認知特性による情報の受け取り方や処理の違いがあります。ここでは、主な原因を3つ解説します。
曖昧な表現や行間の読み取りが苦手
ASD(自閉スペクトラム症)の特性として、発言の意図を推測したり、暗黙のルールや場の雰囲気を読み取ったりすることに負担を感じやすい場合があります。
「なんとなく」「いい感じに」「早めに」といった曖昧な表現は解釈に幅があるため、意図した通りに行動しにくいことがあります。
また、明文化されていない職場ルールについても、判断に迷いやすい傾向も見られます。
一点集中の特性による全体像の把握の難しさ
特定の情報に集中しやすい特性がある場合、指示の細部に意識が向き、全体の流れを同時に把握することに負担を感じることがあります。
部分的な理解に優れる一方で、「この作業が全体の中でどの位置にあるのか」「何のために行うのか」といった背景を同時に捉えることが難しい場面も見られます。
ワーキングメモリの働きが弱い可能性も
ワーキングメモリとは、情報を一時的に保持しながら処理する働きのことです。この特性により、一度に多くの情報を処理することに負担を感じる場合があります。
例えば、「複数の指示を同時に受ける」「途中で追加の依頼が入る」といった状況では、情報整理が難しくなることがあります。
指示のズレが生じたときに起こりやすいこと

指示のズレが生じると、業務上の問題だけでなく、本人の心理面や職場での関係性にも影響が及ぶことがあります。早い段階で適切な対応を取ることが重要です。
ここでは、主な影響を3つ解説します。
ミスが重なることで自己肯定感が下がる
指示の認識のズレによるミスや失敗が続くと、仕事への意欲の低下や不安感につながる場合があります。
発達障害のある方の中には、失敗体験が重なることで気分の落ち込みが長引きやすい傾向が見られることもあります。
また、LD(学習障害)を伴う場合は、特定の分野での困難さに加えて、失敗経験が重なることで自信を持ちにくくなることがあります。
こうした背景を踏まえ、個人の努力だけに原因を求めるのではなく、特性に応じたサポートやフィードバックを行うことが大切です。
周囲との関係が悪化し職場で孤立しやすくなる
指示のズレによってミスが続くと、「指示が正しく伝わっていない」という状況が理解されないまま、評価やコミュニケーションに影響が出ることがあります。
その結果、周囲とのやり取りに難しさを感じたり、相談しづらいと感じたりする状況が生じることもあります。
こうした状況を防ぐためには、組織全体で特性への理解を深め、安心して相談できる環境を整えることが重要です。
二次障害(うつ・不安障害)につながるおそれがある
ミスの繰り返しや人間関係のストレスが重なると、心身の負担が大きくなることがあります。その結果として、うつや不安障害といった状態につながる可能性も指摘されています。
このような状態は、発達障害の特性そのものではなく、環境とのミスマッチによって生じることが多いとされています。
職場で適切な配慮やサポート体制を整えることで、二次障害のリスク軽減につながります。変化に早期に気づき、対応していくことが重要です。
発達障害のある従業員への適切な指示の出し方・伝え方

発達障害のある従業員に対して指示を出すときは、以下のポイントを心がけましょう。これらの工夫は発達障害のある方だけでなく、すべての従業員とのコミュニケーション改善にも役立ちます。
具体的な表現で伝える
「早く」「適当に」といった曖昧な表現は避け、数値・期日・手順を明確に示しましょう。
例えば「15時までに3部印刷して部長の机に置く」のように、誰が聞いても同じ解釈ができる指示が理想です。
また、「これ」「あれ」などの指示語は避け、固有名詞や数字で具体的に指定することも重要です。こうした習慣は、職場全体のコミュニケーションの質向上にもつながります。
視覚的なサポートを用いる
口頭での指示に加えて、マニュアルやToDoリスト、図解などを活用し、視覚的に確認できる状態を整えましょう。
チェックリストやスケジュールボード、タスク管理アプリを用いて進捗を可視化することも効果的です。これにより、ワーキングメモリの負担や聴覚情報の処理の難しさを補い、ミスの軽減につながります。
また、視覚化された指示は、自律的に業務を進めやすくする効果も期待できます。
指示の内容を復唱してもらう
指示をした後は復唱を促し、理解度を確認しましょう。
特性上、「わかった」と返答していても、実際には十分に理解できていない場合があります。復唱を取り入れることで、指示内容の認識のズレをその場で修正できます。
さらに、「間違っていても大丈夫」と伝え、安心して発言できる環境を整えることも重要です。こうした関わりは、信頼関係の構築や主体的な行動の促進にもつながります。
伝える内容はひとつに絞る
ワーキングメモリの特性により、複数の情報を同時に処理すると混乱や忘却が起こりやすくなります。そのため、指示は「1回につきひとつ」に限定しましょう。
ひとつのタスクが完了してから次の指示を出すことを基本とし、急な予定変更はできるだけ避けることが望ましいです。
このように指示を整理することで、作業への集中を促し、安定した業務遂行につながります。
叱責ではなく改善に向けたフィードバックを心がける
ミスが発生した際は、「次はどうすればうまくいくか一緒に考えよう」といった建設的な声かけを意識しましょう。
失敗を責めるのではなく、改善の機会として捉えることが大切です。そうした関わりは、安心感を生み、モチベーションの維持・向上につながります。
まとめ
発達障害のある方への指示は、曖昧さを避けて具体的に伝え、視覚的な補助や復唱を取り入れながら、ひとつずつ整理して伝えることが重要です。こうした工夫は、ミスや不安の軽減だけでなく、職場全体のコミュニケーション改善にもつながります。特性ではなく伝え方や環境に目を向け、誰もが働きやすい職場づくりを進めていきましょう。
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めぐるファーム編集部
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