障害者雇用を推進しようとしている人事担当者の中には、「障害者自立支援法はいつ制定されたのか」「現在の障害者総合支援法とどう違うのか」と疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。障害者支援に関わる法制度は複数の段階を経て改正されており、その変遷を把握することは障害者雇用を正しく進める上で欠かせません。今回は、障害者自立支援法の施行時期から障害者総合支援法への改正経緯、企業の実務に直結する現行制度の概要まで詳しく解説します。
障害者自立支援法から障害者総合支援法への改正経緯

障害者自立支援法は、2006年に施行された障害者福祉に関する具体的サービスを定めた法律です。
ノーマライゼーション(障害のある人もない人も平等に社会参加できる社会の実現)の理念に基づいて制定され、それ以前の「支援費制度」が抱えていた障害種別ごとのサービス分断・財政負担の急増・精神障害者が対象外に置かれていたといった課題を解消するために立法化されました。
しかし施行後まもなく、応益負担(サービス利用量に応じた原則1割の自己負担)の導入による経済的な負担の増加が深刻な社会問題となりました。
障害者や支援団体から強い反発が生じ、2008年には「応益負担は憲法違反である」として全国70名以上が国や自治体を訴える訴訟に発展しました。2010年に国は原告団と基本合意文書等を締結し、同法の廃止を含む抜本的な見直しを約束するに至りました。
その後、同法の廃止ではなく従来の枠組みをより包括的な支援を目的とした法律へと発展的に改正するという方針が採られ、2013年に「障害者総合支援法(正式名称:障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律)」が施行されました。名称の変更とともに、基本理念と支援対象の両面で大きな転換が図られ、現在の障害者総合支援法に基づく支援体制が整備されました。
なお、2013年の施行後も法律は継続的に見直されており、2018年には就労定着支援・自立生活援助などの新たなサービス類型が創設されました。
さらに、2022年の改正では地域生活支援拠点などの整備促進やグループホームにおける支援の充実が盛り込まれ、主な規定は2024年4月に施行されました。
共生社会の実現に向けた取り組みは改正のたびに強化されており、企業の人事担当者も最新の制度動向を定期的に確認しておくことが求められます。
障害者総合支援法における主な改正ポイント

障害者総合支援法では、自立支援法に比べて考え方や対象の面で大きな転換が図られました。ここでは、主な改正ポイントを詳しく解説します。
6つの基本理念を創設
障害者総合支援法では、法律の冒頭に以下の基本理念が新たに設けられました。
①すべての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念のもと、共生社会を実現すること
②すべての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現すること
③可能な限りその身近な場所において必要な日常生活および社会生活を営むための支援を受けられること
④社会参加の機会が確保されること
⑤どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと
⑥社会的障壁の除去に資するよう、支援が総合的かつ計画的に行われなければならないこと
出典:e-Gov検索「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律」
これらの基本理念は、障害者支援の目的を「福祉的な保護」から「共生社会の実現」へと明確に転換したものであり、その後の各種サービスの設計・解釈において重要な根拠となっています。
障害者自立支援法と障害者総合支援法の違い
2006年に施行された障害者自立支援法は、それ以前の支援費制度では対象外だった精神障害者を包含しましたが、応益負担による自己負担の大きさや制度の複雑さなど新たな課題を抱えることになりました。
これらを改善し、すべての人がともに生きる「共生社会」の実現を目指して改正されたのが、現在の障害者総合支援法です。
最も大きな変化の一つは支援対象の拡大で、制度の谷間のない支援を提供する観点から、難病なども障害福祉サービスの対象となりました(当初130疾病、その後段階的に拡充)。
これにより、身体障害・知的障害・精神障害(発達障害を含む)・難病が支援対象として整理され、これまで制度の谷間にあった方々も支援を受けやすくなりました。
また、自立支援法で使われていた「障害程度区分」は「障害支援区分」に改称され、障害の「程度」ではなく「その方に必要な支援の量・内容」を中心に判定する考え方が前面に出されました。
雇用にかかわる支援制度

障害者総合支援法に基づく給付・事業のうち、企業にかかわりの深いものとして「就労移行支援」と「就労継続支援」があります。人事・採用担当者はそれぞれの違いを把握しておきましょう。
出典:厚生労働省「障害者総合支援法について」
就労移行支援
就労移行支援は、一般企業への就職を目指す方を対象とした支援制度です。就職に必要なスキルの習得(ビジネスマナー・PC操作・コミュニケーション訓練など)や、職場体験・実習への同行支援などを通じて、一般就労への移行を後押しします。
利用中に工賃は基本的に発生しません。利用対象は原則として65歳未満で、利用期間は原則2年以内とされています。
企業が就労移行支援事業所を利用している求職者を受け入れる場合、支援員が採用後の定着支援にも関与するケースがあり、雇用後のフォローアップ体制として活用できます。
就労継続支援
就労継続支援は、現時点では一般企業への就職が困難な方を対象に、就労機会と生産活動の機会を提供する制度です。雇用形態によってA型とB型に分かれます。
就労継続支援A型は雇用契約を結んで働く形式で、最低賃金が保障されます。利用対象は原則として65歳未満です。
就労継続支援B型は雇用契約を結ばない形式で、年齢規定はありません。いずれも作業に応じた工賃が支給されます。企業の中には、就労継続支援事業所に業務を外部委託しているケースもあり、間接的な形での障害者雇用との接点となることがあります。
就労移行支援・就労継続支援のいずれも、利用にあたっては市区町村への申請と受給者証の取得が必要です。
企業側がこれらの制度を把握しておくことで、採用候補者が現在どのような支援を受けているかを理解しやすくなり、入社後のサポート体制を事前に検討できます。採用面接や職場実習の際に支援員と連携すれば、双方にとってスムーズな就労移行につながります。
まとめ
障害者自立支援法は2006年に施行されましたが、応益負担による経済的負担の問題などが積み重なり、2013年に障害者総合支援法へと発展的に改正されました。新法では基本理念が設けられ、難病患者への対象拡大など支援の幅が広がっています。
企業の人事担当者は、障害者総合支援法と障害者雇用促進法が互いに補完し合う関係にあることを理解した上で制度に向き合うことが大切です。就労移行支援・就労継続支援といった制度の仕組みを把握し、支援機関との連携も視野に入れながら、障害者雇用の受け入れ体制を整えていきましょう。
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著者プロフィール
めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。