うつ病の方への接し方で最も大切なのは、病気を正しく理解し、本人のペースを尊重することです。善意の「がんばれ」や「気の持ちようだ」という言葉は、かえって相手を追い詰めてしまうことも少なくありません。適切な支援を行うには、避けるべき言動と心がけるべき姿勢を具体的に知っておく必要があります。
今回は、うつ病の人に対してやってはいけないことと、接する際に大切にしたい心構えについて解説します。
うつ病の人にやってはいけないこと

うつ病の方と接する際、良かれと思った言葉や行動が、かえって相手を苦しめてしまうことがあります。病気の特性を理解していなければ、プレッシャーや孤独感を強めてしまう可能性があるのです。
ここでは、うつ病の方への接し方で特に避けるべき4つの行動について解説します。
NG行動1|精神論を持ち出す
うつ病は脳の機能障害による病気であり、本人の努力不足や性格の問題ではありません。それにもかかわらず「気の持ちようだ」「もっとポジティブに考えれば」といった精神論を持ち出すのは、病気の本質を理解していない言動といえます。
また、「気晴らしに旅行でもしたら?」「運動すれば元気になるよ」といった言葉も、一見優しく聞こえますが、うつ病の方にとっては「そんな気力すらない」という現実を突きつけられることになり、自責の念を強めてしまうことがあります。
大切なのは、うつ病をひとつの病気として冷静に受け止め、共感的に寄り添う姿勢を持つことです。本人の苦しみを否定せず、そのままの状態を受け入れることが、何よりの支えになります。
NG行動2|「がんばれ」と言いすぎる
励ますつもりで言った「がんばれ」という言葉が、うつ病の方にとっては大きな重圧となります。すでに限界までがんばってきた結果、心身が疲弊してうつ病を発症している場合が多いため、「これ以上どうがんばれば良いのか」と絶望感を抱かせてしまうのです。
うつ病の方に必要なのは励ましではなく、休息の許可です。「今は休む時だよ」「つらいね」「ゆっくりで大丈夫だよ」といった、相手の現状を肯定し、休むことを促す言葉のほうがはるかに効果的です。
何もできない自分を責めている方にとって、「休んで良いんだ」というメッセージこそが、心の重荷を軽くしてくれます。
NG行動3|焦らせる・急かす
うつ病の回復には時間がかかり、良くなったり悪くなったりという波を繰り返しながら、ゆっくりと改善していくのが一般的です。「そろそろ元気になった?」「いつまで休むの?」といった言葉は、本人の回復を急かすプレッシャーとなり、焦りや不安を増大させます。
病状や個人の状況によって回復のペースは大きく異なります。周囲が期待する速度で回復が進まないことに、本人が最も焦りを感じているものです。回復には長い時間がかかることを理解し、長期的な視点で根気強くサポートする覚悟が必要です。
NG行動4|個人の経験・価値観を押し付ける
「自分もそうだったけど乗り越えた」「みんな苦しんでいる」など、自分の経験や一般論を持ち出すことは、うつ病の方を追い詰める危険があります。本人は「自分だけが弱いのではないか」という孤独感や孤立感と戦っているため、このような言葉はかえってその感覚を強めてしまいます。
また、本人の言動や感情を否定したり、批判したり、評価したりすることも避けるべきです。
うつ病の人に必要なのは、比較や評価ではなく、その方だけの苦しみを認め、個別の状況として受け止めることです。一人ひとりの経験は異なるという前提に立ち、ただ話を聞き、寄り添う姿勢が何よりも大切なのです。
うつ病の人に接するときに大切にしたいこと

うつ病の人と接する際には、いくつかの重要な心構えを持つことが求められます。誤った認識や不適切な対応は、本人を傷つけたり症状を悪化させたりする可能性があるため、正しい理解に基づいた接し方が必要です。
ここでは、うつ病の人に寄り添うために理解しておくべき4つの心構えについて解説します。
うつ病は「病気」と理解する
うつ病は意志の弱さや性格の問題ではなく、脳の機能障害によって引き起こされる病気であり、治療が必要です。「気の持ちよう」や「がんばれば治る」といった誤解は、本人を追い詰める原因になります。
風邪や骨折と同じように、適切な治療が必要な医学的疾患であることを認識することが大切です。この理解があれば、本人を責めたり安易な励ましをしたりすることを避けられます。
原因を探さない
うつ病の原因は単一ではなく、遺伝的要因、環境的ストレス、身体的疾患など複数の要素が複雑に絡み合って発症します。
「なぜうつになったのか」と原因を追求することは、本人を責める結果につながり、かえって心理的負担を増やしてしまいます。
原因探しよりも、今この瞬間に本人が抱えている苦痛や辛さに寄り添い、共感することが何より重要です。
回復には時間が必要であることを理解する
うつ病の回復は一直線ではなく、良くなったり悪くなったりを繰り返しながら徐々に改善するのが一般的です。
「早く治してほしい」「いつまでかかるのか」といった回復を急かす言動は、本人にとって大きなプレッシャーとなり、焦りや罪悪感を生み出します。
回復には数か月から年単位の時間がかかることもあるため、焦らず長期的な視点で見守る姿勢が求められます。
本人のペースを尊重する
うつ病の状態では、日によって体調や意欲が大きく変動します。周囲が良かれと思って活動を促しても、本人にとっては大きな負担になることがあります。
できること・できないことは本人が一番よくわかっているため、無理に何かをさせようとせず、本人の意欲や体力に合わせることが大切です。理想的なのは、本人が自ら行動したときに、さりげなく支えるスタンスです。
うつ病の社員に対する必要な配慮も押さえておこう
企業は労働契約法に基づき、従業員の生命や身体の安全を確保する「安全配慮義務」を負っています。これは身体的な健康だけでなく、心の健康についても含まれます。うつ病と診断された社員に対しては、適切な配慮と支援を行うことが法的にも求められているのです。
ここでは、企業として押さえておくべき具体的な配慮のポイントについて解説します。
休業・復職の支援体制の整備
うつ病の社員が安心して休職し、円滑に職場復帰できるよう、職場復帰支援プログラムの策定や関連規程の整備により、休業から復職までのプロセスを事前に確立しておきましょう。
社員から診断書が提出され休業が決定した際は、必要な事務手続きや復帰支援について丁寧な説明が求められます。厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」は、事業場向けの実践的なマニュアルとして活用できます。こちらのガイドラインを参照しながら、体系的な支援体制を構築することをおすすめします。
出典:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~」
また、適切なタイミングで必要な支援を提供するためには、休業中の社員の病状をこまめに把握しておくことも欠かせません。ただし、過度な連絡はプレッシャーになる可能性があるため、本人の状態に配慮した頻度やコミュニケーション方法を検討しましょう。
把握した状況に応じた個別のケア
職場復帰の際は、一人ひとりの状態に合わせた個別対応が不可欠です。
産業医や保健師などの専門家と連携しながら「職場復帰支援プラン」を作成し、本人の回復状況に応じて段階的に業務負荷を調整していきましょう。いきなりフルタイムの勤務に戻すのではなく、短時間勤務や業務内容の軽減から始めるなど、徐々に仕事に慣れてもらう配慮が重要です。
さらに、復職後も継続的な経過観察を行い、プランの見直しや改善を進めることが求められます。主治医と情報共有しながら、病気の再発防止に努める体制を整えることで、社員が安心して働き続けられる環境を提供できます。
まとめ
うつ病の方への接し方として、精神論や「がんばれ」という励まし、焦らせる言動、個人の経験の押し付けは避けるべきです。うつ病は脳の機能障害による治療が必要な病気であり、原因を探すのではなく本人の苦痛に寄り添うことが重要です。
回復には時間がかかるため、本人のペースを尊重し、長期的な視点で見守る姿勢が求められます。企業では安全配慮義務に基づき、メンタル状況の定期的な把握と個別のケアを行い、職場復帰支援プログラムを整備しましょう。
職場で精神障害のある社員への適切な配慮にお困りの場合は、めぐるファームにご相談ください。一人ひとりに寄り添った就労支援で、職場環境づくりをお手伝いします。
Profile
著者プロフィール
めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。