仕事でうっかりミスをして落ち込んだり、集中力が続かないと感じたりすることはありませんか。実は、生きづらさの背景には、女性特有のADHD(注意欠如・多動症)が関係している場合があります。
ADHDは子どもの発達特性として知られていますが、大人になってから気づく方も少なくありません。特に女性の場合、周囲に合わせようと無理をしたり、ホルモンバランスの変化によって症状が強まったりすることがあります。今回は、大人の女性のADHDの特徴や困りごと、対策を紹介します。
大人の女性のADHDに見られる特徴

大人の女性にみられるADHDは、子どもとは異なり、不注意の傾向が強く、多動性が目立ちにくいのが特徴です。また、人間関係のトラブルや感情の波、衝動的な行動に悩むこともあります。うつ病や不安障害などの二次障害を伴うケースも少なくありません。
ここでは、仕事や人間関係、日常生活における主な特徴を紹介します。
不注意の顕著さ
大人のADHDの女性では、仕事中に集中力が続かず、注意が散漫になりやすい傾向があります。そのため、同じようなミスを繰り返したり、段取りの途中で別の作業に気を取られたりすることがあります。
物事の優先順位をつけるのが苦手で、作業の進め方に迷ったり、予定通りに進まなかったりすることもあるでしょう。また、約束や提出物を忘れてしまい「またできなかった」と自分を責めて落ち込む方もいます。
これらの要因として「ワーキングメモリ(短期記憶)」の容量が少なく、必要な情報を一時的に保持する力の弱さが関係していると考えられています。
多動性が目立ちにくい
ADHDといえば「じっとしていられない」イメージがありますが、女性では外見上の多動性が目立たない場合が多いとされています。
特に女性は、職場や家庭などで落ち着いた行動や、丁寧な対応が求められることが多く、その期待に応えようとして無意識に衝動を抑えやすいといわれています。
そのため、子どものように動き回る多動性は表面化しにくく、頭の中で思考が止まらない、常に焦っているなどの内面的な落ち着きのなさとして現れるのです。
ただし、心の中では常に焦りや不安などを感じていても、周囲には伝わりにくいため、「しっかりしている」と誤解されやすい方が多いのも特徴です。
例えば、会議中や電車の中など、動けない状況で手足を動かしたり、姿勢を変えたりするなどの微細な動きがみられても、疲れや緊張の癖としてみられるため、ADHDとして認識されにくいようです。
ADHDの特性が表面化しにくい傾向があり、結果として本人の多動性が見過ごされやすくなります。
人間関係が困難
大人のADHDの女性の中には、人間関係に悩みを抱えている方もいます。思ったことをそのまま口にして相手を傷つけたり、会話の途中で話を遮ったりするなどで、誤解やトラブルの原因になりかねません。
また、時間の見積もりが甘く、待ち合わせ時間に遅れてしまうこともあり、相手からルーズな印象をもたれる場合もあります。
こうした特徴が表面化すると、周囲からはわがままな印象をもたれやすく、人間関係を維持する上で苦労することもあるでしょう。
また、人と打ち解けるのは得意でも、関係が維持することが難しい傾向があります。
気分変動
ADHDの女性は、ホルモンバランスの変化が気分や集中力に影響しやすいといわれています。PMS(月経前症候群)の症状と重なり、区別が難しい場合もありますが、些細なことで感情的になりやすく、イライラや落ち込みが強まる傾向もみられます。
普段なら気にならないことに過敏に反応してしまい、あとから後悔することもあるでしょう。
さらに、妊娠・出産・更年期などのライフステージの変化によってもホルモンの分泌が大きく変わるため、ADHDの症状が強く出る場合があります。
過剰適応と二次障害
大人の女性のADHDは、男性に比べて症状が外見からはわかりにくいため、周囲に気付かれずに長年苦しむことがあります。仕事や家庭での役割を果たそうと無理を重ね、「もっと頑張らなければいけない」と自分を追い込んでしまう傾向もみられます。
その結果、ストレスが蓄積し、うつ病や不安障害などの二次障害を引き起こすケースもあるのです。さらに、ホルモンバランスの変化やライフステージの移行によって症状が変動し、診断が難しくなることもあります。
ADHDの症状は他の精神疾患と区別がつきにくく、複数の症状を合併している場合は、診断が遅れたり見過ごされたりすることもあるようです。
大人の女性のADHDによくある仕事での困りごと・対策

大人の女性のADHDでは、不注意の傾向が強く、仕事の場面でも集中力の維持や段取りの難しさなど、さまざまな悩みを抱えやすいといわれています。
ここでは、ADHDの方が職場でよく生じやすい困りごとやその対策について、詳しく解説します。
整理整頓や片付けが苦手で、デスクが散らかる
整理整頓や片付けが苦手で、デスクの上がすぐ散らかってしまうのは、ADHDの女性にとって珍しいことではありません。視界に物が多いと気が散りやすく、集中力が続かないことがあります。
物が紛失することも多く、資料探しに時間を取られるなど、仕事の効率にも影響しがちです。
自分でできる取り組み
整理整頓や片付けが苦手な方におすすめの対策は以下の通りです。
・物の定位置を決める
よく使う文具や書類などの置き場所を決めておくと、探す時間が削減できてスムーズに作業できます。
・「とりあえず入れる箱」を用意する
処理が追いつかない書類は一時置き用の箱に入れ、後で整理しましょう。
・デジタルツールを活用する
書類をスキャンしてデータ化したり、タスク管理アプリを使ったりして、紙の資料を減らすことも有効です。
スケジュールや時間管理が苦手で、遅刻や納期遅れが多い
仕事や家事の優先順位をつけるのが難しく、締切を忘れたり、作業時間を甘く見積もってしまったりすることがあります。その結果、焦りやミスが重なり、自己否定につながることもあります。
自分でできる取り組み
スケジュールや時間管理が苦手な方におすすめの対策は、以下の通りです。
・タスクを細分化する
大きな仕事を、実行可能な小さなタスクに分解してリストアップしましょう。
・リマインダーを活用する
複数のアラームやリマインダーをセットして、締め切りやアポイントメントを忘れないよう心がけましょう。
・デッドラインを早めに設定する
実際の締め切りより少し前に自分なりの期限を設けておくと、余裕をもって仕事を進めやすくなります。
集中力が続かず、ケアレスミスが多い
単調な作業や興味のもてない業務では集中力が続きにくく、誤りや抜け漏れが増える傾向があります。注意がそれやすいため、確認作業を飛ばしてしまうこともあります。
自分でできる取り組み
集中力不足やうっかりミスを防ぎたい方におすすめの対策は、以下の通りです。
・集中できる環境をつくる
集中力が途切れる原因となるものをデスク周りから遠ざけ、パーテーションで区切ったり、ノイズキャンセリングイヤホンを使ったりするなど工夫しましょう。
・ポモドーロ・テクニック
「ポモドーロ・テクニック」とは、25分間作業に集中したら5分間休憩することを繰り返す時間管理術です。集中する時間と休憩時間を交互に繰り返すことで、集中力の持続を促します。
・作業を可視化する
チェックリストを作り、作業が完了するごとにチェックを入れることで、達成感を味わいながらミスを予防できます。
感情のコントロールが難しく、人間関係で悩む
思ったことをすぐ口にしてしまう、気分の波によって対応が変わってしまうことで、職場の人間関係がぎくしゃくするケースもあります。相手の反応を気にしすぎて疲れてしまう方も多いようです。
自分でできる取り組み
上手に感情コントロールを行う方法は、以下の通りです。
・アンガーマネジメントを学ぶ
イライラや怒りの感情がみられるときの傾向を知り、衝動的な行動を抑える方法を身につけましょう。
・相談できる相手を見つける
ストレスや不満をため込まず、信頼できる友人やカウンセラーに相談しましょう。
まとめ
大人の女性のADHDは、不注意が強く出やすく、多動性が目立たないために見過ごされがちです。頑張りすぎて疲れてしまう方も少なくありませんが、ADHDの特徴を理解し、自分に合った方法で働き方や生活を整えることで、より快適に過ごせるようになるでしょう。
小さな工夫でも、続けることで大きな変化につながります。困りごとが続くときは一人で抱え込まず、専門の医療機関やカウンセラーに相談してみましょう。
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めぐるファーム編集部
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