障害者総合支援法とは?支援内容と人事担当者が押さえるべきポイント

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障害者雇用を進めようと考えているものの、制度や対象範囲などがよくわからないと感じていませんか。障害者雇用成功のためには、関連する法律の概要を把握しておくことも重要です。

今回は、障害者総合支援法について、概要や押さえておくべきポイントについてわかりやすく解説します。

障害者総合支援法とは?

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障害者をサポートする法律に、障害者総合支援法(正式法令名:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)があります。どのような法律なのか、まず、概要や制定の背景について説明しましょう。

なお、障害者の安定就労についての法律としては、障害者雇用促進法(正式法令名:障害者の雇用の促進等に関する法律)があります。詳しくは、こちらの記事をご覧ください。

障害者雇用促進法とは?対象企業から求められる義務、違反リスクまで徹底解説

障害者雇用促進法により、障害者雇用の義務が発生することがわかっていても、具体的な内容を把握しきれていない担当者も多いのではないでしょうか。今回は、障害者雇用促進法の概要や改正ポイント、企業における義務について紹介します。障害者雇用促進法とは?障害者雇用促進法は、障害者の就労の安定を目的とした法律です。1960年に制定された身体障害者雇用促進法から始まり、名称変更や対象者の拡大、法定雇用率の引き上げなどによる改正を経て現在に至ります。正式法令名は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、ここでは「障害者雇用促進法」と表記することにします。障害者雇用促進法の理念にあるのは、ノーマライゼーションです。障害の有無に関係なく、すべての国民が互いに尊重し合う社会の実現がベースにあります。障害者の保護ではなく、社会の一員として、障害者自身が能力を発揮して働ける機会の確保を目的としているのが特徴です。具体的には、障害者に対する職業的な差別の禁止、障害者雇用状況の報告、法定雇用率以上を達成する義務などが定められています。2024年の改正ポイント2024年の改正ポイントは4つあります。まず、法定雇用率の引き上げです。民間企業の法定雇用率は2.3%でしたが、2024年4月以降は2.5%、2026年7月以降は2.7%の引き上げとなります。1人以上の障害者の雇用義務が発生する範囲が拡大し、常時雇用する労働者が43.5人以上から40人以上の事業主になりました(2026年7月以降は37.5人以上に拡大)。2つ目は、雇用率の計算の対象が拡大されたことです。改定前は、週の所定労働時間20時間以上の障害者を対象としていましたが、改定により週10時間以上20時間未満の障害者も対象に含まれます。3つ目は、報奨金や障害者雇用調整金の支給の見直しです。これまで支給対象である障害者の人数に関わらず一律の金額が支払われていましたが、対象人数に応じて調整されることになりました。障害者雇用調整金については、支給対象が10人を超えるときは、超過分は、1人あたりの月額29,000円から6,000円の調整(減額)となります。報奨金は、35人を超えるときは、1人あたりの月額21,000円から超過分は5,000円の調整となります。4つ目は、助成金の新設と拡充です。障害者雇用に関する相談援助のための助成金などが新設され、障害…

https://me-gu-ru.net/media/column/109/

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法律の概要

障害者総合支援法は、障害のある方が基本的人権を持つ個人として、日常生活や社会生活を送れるよう支援を定めた法律です。

障害者に必要な福祉サービスの給付や地域生活支援事業などの総合的な支援が制定されています。

以下が基本理念として定められています(第一条の二)。

「障害者及び障害児が日常生活又は社会生活を営むための支援は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、全ての障害者及び障害児が可能な限りその身近な場所において必要な日常生活又は社会生活を営むための支援を受けられることにより社会参加の機会が確保されること及びどこで誰と生活するかについての選択の機会が確保され、地域社会において他の人々と共生することを妨げられないこと並びに障害者及び障害児にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものの除去に資することを旨として、総合的かつ計画的に行わなければならない。」

引用:e-GOV「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律

障害の有無にかかわらず人々が共生できる社会にすること、障害があっても社会に参加する機会が確保されることが目的であることがわかります。

障害者総合支援法の対象になるのは、以下に該当する場合です。

  • 身体障害者、知的障害者、発達障害を含む精神障害者で18歳以上の方
  • 身体障害、知的障害、発達障害を含む精神障害を抱える18歳未満の児童
  • 政令に定める難病で障害があると認められる方(難病患者)

法律制定の背景と変遷

障害者総合支援法は、2013年に施行された法律です。法律の成立までにさまざまな経緯がありました。2000年から2013年にかけての制定までの経緯を説明します。

2000年|社会福祉基礎構造改革

現行の障害者総合支援法は、2000年の社会福祉基礎構造改革の流れを汲んだ法律です。2000年以前は、社会福祉事業は基本的に行政に決定権がありました。

そこで、社会福祉のあり方を行政が決めてしまうのではなく、利用者の意思でサービスを選択できるように制度の方針を変えたのが社会福祉基礎構造改革です。

社会福祉サービスの量や質を良くすることを目的に、福祉サービス事業の規制緩和が行われました。これにより、民間企業の社会福祉事業への参加が促進されました。

2003年|支援費制度の開始

サービスの利用者自らが選択できる仕組みは、2003年の支援費制度の施行で実現します。支援費制度は、現行の障害者総合支援法の基礎となったものです。

これまで適用されてきた障害保健福祉施策とは異なり、より充実したサービス内容をもって開始されました。しかし、数年で財源不足やサービス利用料の地域差などが問題となり、改正が迫られます。

2006年|障害者自立支援法の施行

支援費制度の課題を踏まえ、改正法として2006年に施行されたのが障害者自立支援法です。障害者が、地域社会で就労などを行い自立して生活できるように制定されました。

それまで存在していた障害者の区分がなくなり、すべての障害者が同様の支援を受けられる内容になります。しかし、多くの障害者が該当する低所得世帯にも1割の負担を課す制度で、障害者の負担が増加する形になりました。

障害者自立支援法の問題点は、サービス提供事業者にも不評を買ってしまいます。

2013年|障害者総合支援法の施行

2006年に施行された障害者自立支援法の改正により、2013年に障害者総合支援法が施行されました。障害者自立支援法の違憲訴訟に対し、訴訟の和解で交わされた基本合意に基づいて行われた改正でした。

障害者自立支援法から障害者総合支援法になったことで、障害者の自立ではなく、基本的人権を有する個人の尊厳に表現が変更されます。障害者との共生や社会参加の機会創出を重視した基本理念になりました。

改正により、障害者の範囲に難病患者が加わったほか、地域生活支援事業が明記されるなどの変化がありました。

障害者総合支援法の具体的な支援内容

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障害者総合支援法では、自立支援給付と地域生活支援事業が支援内容として定められています。雇用制度に直接関係する内容ではありませんが、合理的配慮を考える上でヒントになるかもしれません。

合理的配慮については、こちらの記事で詳しく紹介しています。

合理的配慮とは?企業が抱える課題と対応策

障害者差別解消法(正式法令名:障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律)が改正され、2024年4月1日からは事業者による「合理的配慮の提供」が義務化されました。合理的配慮とは、どのような考え方なのでしょうか。今回は、合理的配慮の意味や具体例、企業が直面する課題と対応策について解説します。職場全体をより働きやすくし、企業の社会的価値を高めるためにも、ぜひ参考にしてみてください。合理的配慮とは?ここでは、「合理的配慮」の意味や具体例について解説します。「合理的配慮」の意味合理的配慮は、障害のある人が「社会的なバリア(障壁)を取り除いてほしい」と要求した際に、周囲が負担の大きすぎない範囲で適切な対応をすることを指します。例えば、車いす利用者に対して段差のない通路を案内したり、聴覚に障害のある人に筆談や文字表示を用意したりするなどが該当します。2021年に障害者差別解消法が改正され、2024年4月1日からは事業者による「合理的配慮の提供」が義務となり、働く場や日常生活のあらゆる場面で合理的配慮が求められるようになりました。ここでは、合理的配慮について理解するためのポイントを3つ紹介します。障害者と企業側との話し合いが必要障害のある人が抱える困難さは一人ひとり異なり、必要とする配慮の内容も異なります。そのため、画一的な対応ではなく「どの部分がセルフケアでは解決できず、どのような支援があれば業務がスムーズに進められるか」を双方で確認する必要があります。また、企業にとって過度な負担とならない範囲で実行できるかどうかも重要なポイントです。きちんと話し合うことで、障害者本人のニーズと企業の実情のバランスを取りながら、現実的かつ効果的な合理的配慮が実現します。障害者手帳の有無は関係ない合理的配慮は、障害者手帳を持っているかどうかに関わらず必要とされます。つまり、「身体障害、知的障害、精神障害」といった種別や、雇用形態が「障害者雇用枠か一般雇用枠」かに関係なく、その人の障害特性によって社会生活に困難を抱えている場合には対象となり得ます。障害者からの申請が必要合理的配慮は、障害者側から「助けを求める意思」が示されたときに提供されるものです。つまり、企業があらゆる配慮を用意する義務があるわけではなく、本人が「この部分で困難があるので支援してほしい」と伝えることが前提です。本人が困っていて…

https://me-gu-ru.net/media/column/308/

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自立支援給付

自立支援給付は、障害がある方が社会生活や日常生活を送れるようにサポートする経済面での支援です。訓練等給付や介護給付、自立支援医療、相談支援などのサポートがあります。

訓練等給付は、障害のある方の自立や就労などを支援するものです。就労定着支援や生活訓練、自立生活援助などが含まれます。

介護支援は、介護を必要とする障害者の日常生活をサポートするものです。居宅介護や生活介護、施設への短期入所や入所支援などが含まれます。

参照:
厚生労働省「障害者総合支援法が施行されました
厚生労働省「障害者総合支援法の給付・事業

地域生活支援事業

地域生活支援事業は、障害の有無にかかわらず地域社会で円滑に生活を送れるサービスにかかわるものです。都道府県や市区町村が提供する支援で、自治体ごとにサービス内容が異なります。

代表的なものに、地域住民に対する障害者の理解促進研修、障害のある方を対象とした相談支援事業、成年後見制度利用支援事業などがあります。

これまでの支援事業などについては、厚生労働省「地域生活支援事業」で紹介されています。

障害者総合支援法について人事が押さえるべきポイント

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障害者総合支援法の理解は、障害者雇用を成功させるサポートになります。実務面では、次の2つのポイントを押さえておきましょう。

2024年の改正点を確認する

障害者総合支援法において、障害者雇用に関連するものとして、2024年に3つの改正がありました。以下、各改正点について説明します。

1.就労選択支援の創設

障害者の希望や適性を踏まえ、ハローワークが実施する就業指導を通じて、就労アセスメントを行います。この制度は、障害者の一般就労への移行や定着を支援することも目的としています。

2.短時間労働者の雇用算定率の見直し

障害者雇用促進法において、雇用義務があるのは所定労働時間が20時間以上の労働者です。しかし、精神障害者など障害特性によっては、長時間労働が難しいケースもあります。

特例として、週の所定労働時間が10時間以上20時間未満の精神障害者や重度身体障害者などについては、事業主が雇用率に算定できるようになりました。

3.障害者雇用調整金などの見直し

障害者の法定雇用率を達成した企業の超過人数分の調整金単価が調整により引き下げられ、雇用継続などの取組支援として助成金が創設されました。

改正のタイミングと内容を確認する

障害者総合支援法は、3年ごとの改正が定められている法律です。従来のサービスが撤廃となったり、新たなサービスが創設されたり、改正のたびに大きな変化があります。

2024年の障害者雇用に関連する障害者総合支援法の改正に触れましたが、2024年には雇用以外にもさまざまな改正が行われています。

障害者雇用を成功させるには、関連する障害者総合支援法の改正タイミングを把握しておくことが重要です。改正案の提出があったタイミング、施行のタイミングで概要を確認しておくことをおすすめします。

まとめ

障害者総合支援法は、障害のある方が尊厳をもって日常生活や社会生活を送れるように支援内容を定めた法律です。身体障害者、知的障害者、発達障害者、難病患者を対象にしており、自立支援給付と地域生活支援事業が定められています。

障害者総合支援法への理解は、障害者雇用を成功させるためにも重要です。3年ごとに改正される内容には、障害者雇用に関するものも含まれます。2024年には、雇用算定率や障害者雇用調整金の見直しがありました。

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めぐるファーム」はNEXT ONEが管理・運営している施設内で、農業などの作業を通して障害のある方の就労をサポートする事業です。常駐するスタッフが、仕事の指導だけでなく、生活面の支援も行っています。

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