
DE&I(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)推進の一環として、社内での多様性理解を深めたいと考えていませんか。障害者雇用に関連して、ニューロダイバーシティという概念があります。
今回は、ニューロダイバーシティの概要と企業での実践例について紹介します。
ニューロダイバーシティとは?

ニューロダイバーシティ(Neurodiversity)は、脳や神経(Neuro)と多様性(Diversity)の組み合わせにより誕生した言葉です。日本語では、神経多様性や脳の多様性などといわれます。
ニューロダイバーシティは、オーストラリアの社会学者であるJudy Singer氏により、1990年代に提唱されました。ニューロダイバーシティの定義とダイバーシティとの違いについて紹介します。
ニューロダイバーシティの定義
ニューロダイバーシティとは、脳や神経に関わる個人の特性を多様性のひとつとして捉え、それを尊重し社会で活かそうとする考え方です。
この概念が重視するのは「神経学的マイノリティ」と呼ばれる人々です。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などの発達障害が含まれます。
ニューロダイバーシティの思想は、発達障害を能力の欠如や優劣として扱うのではなく、ゲノムにおける自然で正常な変異と捉える点に特徴があります。
そのうえで、障害の有無にかかわらず多様な特性を認め、それぞれの強みを社会に還元していこうとする理念に基づいています。
「ダイバーシティ」との違い
ダイバーシティとは、個人レベルにおける多様性を互いに尊重する考え方です。その対象には、性別や年齢、人種や国籍、宗教や文化、障害の有無、価値観など、幅広い要素が含まれます。
多様な人材がそれぞれの能力を最大限に発揮することで、イノベーションや持続的な成長を促進できると考えられています。社会や組織が多様な背景を持つ人材を受け入れることは、誰もが活躍できる社会づくりにつながるのです。
ニューロダイバーシティもまた、多様な人材を社会で活かす点でダイバーシティと共通しています。そのため、ダイバーシティ経営の一要素として位置づけられることもあります。
ただし、ニューロダイバーシティはより具体的な範囲を対象とする点が特徴です。ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などの特性を「個性」として捉え、それを尊重し社会で活かすことを目的としています。
つまり、ニューロダイバーシティが脳や神経のあり方の違いに焦点を当てているのに対し、ダイバーシティはより広範な多様性全般を対象とする点に違いがあります。
ニューロダイバーシティの推進がもたらすメリット

ここでは、企業がニューロダイバーシティを進めることで得られる主なメリットを4つ紹介します。
新たな人材の確保
ニューロダイバーシティを推進することで、従来の採用プロセスでは見過ごされがちだった人材を新たに活用できます。面接で不利になりやすい特性を持つ人も、能力や強みを評価されることで採用対象に含めることが可能になります。
この取り組みにより、就労環境に一層の多様性が生まれ、企業が採用できる人材の幅は大きく広がるでしょう。
さらに重要なのは、こうした多様な人材の確保が単なる人手不足の解消にとどまらず、企業競争力の強化につながる点です。個々の特性や強みを活かすことで、新たな発想や価値を生み出し、結果として企業の優位性を高められます。
生産性の向上
ニューロダイバーシティ人材の中には、特定の環境に適応することで大きな力を発揮できる人もいます。例えば、長時間にわたって高い集中力を維持できる人や、強い探究心を持ち、ひとつのテーマを深く掘り下げられる人などです。
こうした特性を理解したうえで、適した職場環境を整え、相性の良い業務を割り当てることができれば、本人の能力が最大限に引き出されます。その結果、企業全体の生産性向上にも直結します。
イノベーションの創出
ニューロダイバーシティの推進により、ASDやADHDなどの発達障害を持つ人の就労が自然なこととして受け入れられるようになります。発達障害の有無にかかわらず共に働く経験を通じて、職場における偏見や先入観の軽減が期待できます。
その結果、心理的安全性が高まり、誰もが意見を述べやすい職場環境の醸成につながります。心理的安全性は、イノベーションの促進や生産性の向上に直結する重要な要素です。
近年では、発達障害を含む多様な視点を事業成長や新たな価値創出に活かすため、積極的に投資や施策を展開する企業も増えてきています。
ブランドイメージの向上
ニューロダイバーシティの推進は、企業のブランドイメージの向上にもつながります。特性により社会参加が難しかった人々の活躍を支援することは、企業の社会的責任(CSR)を果たす取り組みでもあります。
また、多くの発達障害は精神障害に区分されるため、精神障害のある人を雇用することは法定雇用率の算定に含まれます。結果として、障害者雇用の促進にも寄与します。
さらに、ニューロダイバーシティの取り組みは、企業が重視するSDGs(持続可能な開発目標)の達成にも貢献します。特に以下の目標に関連性が高いといえます。
- 目標4「質の高い教育をみんなに」
- 目標8「働きがいも経済成長も」
- 目標10「人や国の不平等をなくそう」
CSRやSDGsへの貢献は、社会的評価を高めるだけでなく、企業の持続的な成長基盤を強化する効果も期待できます。
ニューロダイバーシティの具体的な取り組み事例

企業において、ニューロダイバーシティはどのように取り入れていけば良いのでしょうか。企業によるニューロダイバーシティ推進の事例を5つ紹介します。
Google:新たな採用プログラムの構築
IT業界大手のGoogleは、自閉症キャリアプログラムによるニューロダイバーシティを推進しています。スタンフォード大学の研究者と構築した独自の採用プログラムです。
自閉症の特性を考慮し、採用面接において、事前質問の提供、時間の延長、書面による実施などの措置を実施しています。また、社内での自閉症への理解を進めるために、採用後の継続的支援や管理職向けの研修なども行っています。
出典:Google Cloud「多様性を持つ人材を活かして職場を強化」
株式会社リコー:発達障害を持つ従業員のスキルを活かす人事配置
リコーでは、特性を活かした人事配置を実践しています。デジタル戦略部門において数学的な能力が突出している人材を配置したことで、アルゴリズム開発の中心的な人材として能力が発揮されるようになりました。
また、特性に合った職場環境が用意されているのも特徴です。職場において能力を十分に発揮できるように、細かな体調管理を実施したり、雑音の少ない環境を用意したりするなど、十分な配慮も行っています。
出典:
株式会社リコー「リコーグループ 統合報告書 2023」
株式会社リコー「得手不得手はあっていい。フォローし合って強みを活かす」
株式会社リクルートオフィスサポート:地方在住の障害者の雇用促進
リクルートオフィスサポートは、地方の精神障害者や発達障害者を積極的に採用する取り組みを行っています。
少人数のトライアル雇用から始まり、2024年6月時点において社員の8割以上がいずれかの障害を持つ方になりました。
また、精神障害者や発達障害者の負担が少ない在宅勤務などの就業環境を構築しているのも特徴です。在宅勤務の方も会社の一員として一体感を得られるように、イベントやチームでの業務遂行を実施しています。
出典:
リクルートホールディングス「障がい者が直面する労働市場の障壁を低減するリクルートグループの取り組み」
経済産業省「ニューロダイバーシティに関する国内企業における実践事例集」
まいばすけっと株式会社:障害者が働きやすい環境を構築
まいばすけっとでは、障害のある社員が安心して働ける環境づくりを目的に、「キャラバン隊」という独自の取り組みを導入しています。
キャラバン隊は、1チーム3~8人の障害のある社員のみで構成されたチームです。選考前には体験実習や雇用前実習を行い、3週間かけて勤務条件をすり合わせることで、ミスマッチの少ない雇用を実現しています。
また、全社員向けに標準化されたマニュアルを活用し、人事部が一括で雇用管理を行う体制を整備。これにより、障害のある社員が安定して長く働ける仕組みを確立しています。
さらに、勤務時間を調整できる仕組みやリーダー制を導入することで、柔軟性を持ちながらやりがいを感じられる職場環境を提供している点も大きな特徴です。
出典:
経済産業省「ニューロダイバーシティに関する国内企業における実践事例集」
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「店舗における「障害のある社員のみで
構成するチーム作業」の取組」
株式会社堀場製作所:個性を活かす職場環境を整備
堀場製作所では、特例子会社の設置は行われていません。各部署に障害のある方を数名ずつ配置することで、交流を通じてニューロダイバーシティを進めています。
障害の有無にかかわらず社員が相互に理解し合えるように、人事部主導で実習や面談を通じて障害への配慮の方法を学ぶ環境が構築されているのも特徴です。
障害のある方の採用においても十分な配慮が行われています。精神障害や発達障害のある方が社是の「おもしろおかしく」を実現できるように、インターンシップを通して相互理解を深めた上での採用を実施しています。
出典:経済産業省「ニューロダイバーシティに関する国内企業における実践事例集」
まとめ
ニューロダイバーシティは、脳の特性にかかわらず個々がそれぞれの特徴を尊重し合いながら、社会に活かしていく考えです。ニューロダイバーシティを推進して、優位の向上に役立てている企業もあります。
障害者雇用を考える上で、ニューロダイバーシティの概念を知り、企業としてできることを進めていくことが大切です。

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著者プロフィール
めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。