
障害者雇用の最低賃金は、一般雇用と同様に設定されています。とはいえ、障害者雇用を進める中で、最低賃金をどのように設定すれば良いかわからない方も多いのではないでしょうか。
今回は、障害者雇用の最低賃金の概要や基本的なルール、障害者雇用の平均的な賃金について詳しく解説します。最低賃金の減額特例についても紹介するのでぜひ参考にしてください。
障害者雇用における最低賃金の考え方

障害がある方の最低賃金は、一般雇用と同じ条件で設定されるのが原則です。障害の有無に関係なく賃金設定を適切に行う必要があります。
日本の「最低賃金法」は、労働者に支払う賃金の最低限度額を定めた法律です。障害を抱えているという理由から低い賃金で雇用することは、原則として認められていません。
各都道府県で定められている「地域別最低賃金」、あるいは特定の産業ごとに設定されている「特定(産業別)最低賃金」のいずれか高い方の金額以上の賃金を支払う義務があります。
障害を理由とする不当な差別は「障害者基本法」や「障害者差別解消法」などにより禁止されており、賃金設定に対しても同様に適用されます。
最低賃金の基本的な3つのルール

ここからは、障害者に限らず健常者にも適用されている、最低賃金の基本ルールについて解説します。
地域別最低賃金・特定最低賃金のどちらかが適用される
先述の通り、最低賃金には「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」の2種類があり、どちらか一方が適用されます。
地域別最低賃金とは、その都道府県内で働くすべての方に対して、産業や職種を問わず適用される最低賃金額です。
一方、特定最低賃金は、主に鉄鋼業や自動車関連業など特定の産業に従事する労働者とその使用者に適用されます。
最低賃金は都道府県ごとに設定されており、地域別と特定の両方の最低賃金が同時に適用される場合には、高いほうの金額が適用されます。なお、特定最低賃金のほうが地域別最低賃金よりも金額が高くなるケースが多いため、特定最低賃金が優先されるのが一般的です。
また雇用形態に関わらず、特定最低賃金あるいは地域別最低賃金を下回ることは法律違反となるため注意が必要です。
地域別最低賃金額以上の賃金を支払わない場合は、「最低賃金法」の規定により50万円以下の罰金、特定最低賃金額以上の賃金を支払わない場合は、「労働基準法」の規定により30万円以下の罰金に処せられます。
出典:厚生労働省「最低賃金の種類」
特例許可制度が認められる場合もある
障害者を最低賃金で雇うことが難しい場合は、最低賃金を減額するための特例許可制度が適用される場合があります。ここからは、減額特例許可制度について詳しく解説します。
最低賃金の減額特例許可制度とは
「最低賃金の減額特例許可制度」とは、都道府県労働局長の許可を得ることで、最低賃金を下回る賃金を支払うことが例外的に認められる制度です。
障害者が従事しようとする業務において、障害が直接支障をきたしていることが明らかな場合など、特定の条件を満たす場合に限り適用されます。
最低賃金を一律に適用すると、結果的に障害者の雇用機会を狭めてしまう可能性があると考えられています。
最低賃金の減額特例許可制度は、個別の状況に応じて適切な賃金設定を可能にし、障害者の雇用継続をサポートする目的で導入されました。
最低賃金の減額の特例許可申請の条件
労働者が最低賃金の減額特例許可制度の対象となるのは、以下の申請条件に当てはまる場合です。
- 精神または身体の障害により著しく労働能力が低い方
- 断続的労働に従事する方
2の断続的労働とは、実作業時間が短く手待ち時間(待機時間)が長い作業のことで、それらが交互に繰り返されることで成り立つ労働形態です。
また、申請には客観的な資料が必要となります。具体的には、障害者と同様の作業を行う最低賃金以上の報酬を得ている従業員と比較して、著しく労働能力が低いと認められる必要があるのです。
他にも、試用期間中の方や認定職業訓練を受ける方、軽易な業務に従事している方は減額特例の対象となる場合があります。
出典:
厚生労働省「最低賃金の減額の特例許可申請について~『断続的労働に従事する者』(最低賃金法第7条第4号)~」
厚生労働省「最低賃金の減額の特例許可申請について~『精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者』(最賃法第7条第1号)~」
給料の不当な減額はNG
「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律」により、障害者の自立や社会参加を妨げる虐待行為は禁止されています。
障害があるという理由だけで給料を不当に減額することは、経済的虐待とみなされるため注意が必要です。経済的虐待とは、障害者の財産を不当に処分することや、障害者から不当に財産上の利益を得ることを指します。
また障害者に限らず、会社側の一方的な給与の減額は「労働契約法」により原則認められていません。
ただし給与の減額に関して労働者の同意があったり、就業規則の変更を周知し、その合理性が認められたりした場合は、例外的に認められる場合もあります。
その場合は企業からの十分な説明はもちろん、従業員が労働条件の変更を自由意思によって受け入れたと判断できるような同意が必要です。
出典:
厚生労働省「障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律について」
厚生労働省「労働契約法」
障害者雇用における平均的な賃金は?

障害者の平均月給は、全体で約16万2,000円です。ただし一般の労働者と同様に、業種や職種、雇用形態によって賃金が異なるという点を認識しておきましょう。
ここからは、身体障害者、知的障害者、精神障害者、発達障害者それぞれの平均的な賃金について、障害者雇用実態調査報告書をもとに解説します。
出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」
身体障害者の平均給与
身体障害者の平均月給は23万5,000円で、週所定労働時間別の平均給与は以下の通りです。
- 30時間以上:26万8,000円
- 20時間以上30時間未満:16万2,000円
- 10時間以上20時間未満:10万7,000円
- 10時間未満:6万7,000円
週所定労働時間別の割合は、30時間以上が75%を占めています。
身体障害者の産業別雇用者数の割合は、製造業が21.3%と最も多く、卸売業・小売業が21.2%、サービス業が14.9%です。
雇用形態別の雇用者数の割合は、無期契約の正社員が53.2%、有期契約の正社員が6.1%、無期契約の正社員以外が15.6%、有期契約の正社員以外が24.6%と正社員の割合が高い傾向にあります。
職業別雇用者数の割合は、事務的職業が26.3%、生産工程の職業が15.0%、サービスの職業が13.5%です。
知的障害者の平均給与
知的障害者の平均月給は13万7,000円で、週所定労働時間別の平均給与は以下の通りです。
- 30時間以上:15万7,000円
- 20時間以上30時間未満:11万1,000円
- 10時間以上20時間未満:7万9,000円
- 10時間未満:4万3,000円
週所定労働時間別の割合は、30時間以上が64.2%と半数を超えています。
知的障害者の産業別雇用者数の割合は、卸売業・小売業で32.9%、製造業が15.4%、サービス業が13.2%です。
雇用形態別の雇用者数の割合は、無期契約の正社員が17.3%、有期契約の正社員が3.0%、無期契約の正社員以外が38.9%、有期契約の正社員以外が40.7%と正社員の割合が低い傾向にあります。
職業別雇用者数の割合は、サービス業が23.2%と最も多く、運搬、清掃、包装等の職業が22.9%、販売業が16.8%です。
精神障害者の平均給与
精神障害者の平均月給は、14万9,000円で、週所定労働時間別の平均給与は以下の通りです。
- 30時間以上:19万3,000円
- 20時間以上30時間未満:12万1,000円
- 10時間以上20時間未満:7万1,000円
- 10時間未満:1万6,000円
週所定労働時間別の割合は、30時間以上が56.2%です。
また、精神障害者の産業別雇用者数の割合は、卸売業・小売業で25.8%と最も多く、製造業が15.4%、サービス業が14.2%です。
雇用形態別の雇用者数の割合は、無期契約の正社員が29.5%、有期契約の正社員が3.2%、無期契約の正社員以外が22.8%、有期契約の正社員以外が40.6%です。
職業別雇用者数の割合は、事務的職業が29.2%と最も多く、続いて専門的、技術的職業が15.6%、サービス業が14.2%の順に多くなっています。
発達障害者の平均給与
発達障害者の平均月給は、13万円で、週所定労働時間別の平均給与は以下の通りです。
- 30時間以上:15万5,000円
- 20時間以上30時間未満:10万7,000円
- 10時間以上20時間未満:6万6,000円
- 10時間未満:2万1,000円
週所定労働時間別の割合は、30時間以上が60.7%です。
また、発達障害者の産業別雇用者数の割合は、卸売業・小売業が40.5%と最も多く、サービス業が14.6%、製造業が10.2%です。
雇用形態別の雇用者数の割合は、無期契約の正社員が35.3%、有期契約の正社員が1.3%、無期契約の正社員以外が23.8%、有期契約の正社員以外が37.2%です。
職業別雇用者数の割合は、サービス業が27.1%と最も多く、続いて事務的職業が22.7%、運搬、清掃、包装等の職業が12.5%の順に多くなっています。
まとめ
障害者雇用における最低賃金は、一般雇用と同様の条件で設定され、「地域別最低賃金」と「特定最低賃金」のどちらか一方が適用されます。
「最低賃金の減額特例許可制度」によって、最低賃金を下回る賃金の支払いが認められる場合はありますが、障害があるという理由だけで給料を不当に減額することは認められません。
障害者雇用の場合も、一般雇用と同じように最低賃金制度を遵守し、障害の有無に関係なく適切な賃金設定を行いましょう。
本記コラムに記載の内容は、2025年8月4日時点の情報に基づきます。

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めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。