特例子会社とは?障害者雇用におけるメリットや設立の流れまで解説

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障害者雇用の法定雇用率を達成するために、積極的に取り組みたいと思うものの、現状の体制では難しいと悩んではいませんか。障害者雇用促進を図るなら、特例子会社を設立する方法もあります。今回は、特例子会社の要件やメリット、設立の流れについて紹介します。

障害者雇用における「特例子会社」とは

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ここでは、特例子会社の概要や要件について解説します。

特例子会社の概要

特例子会社制度は、「障害者雇用促進法(正式法令名 : 障害者の雇用の促進等に関する法律)」の特例として設けられ、障害者雇用の促進と安定を目的としています。企業の法定雇用率の達成を支援し、障害者にとって働きやすい環境を提供するための制度です。

特例子会社に雇用されている障害者は、親会社や企業グループ全体の実雇用率に合算できます。特例子会社を設立するには、以下に示す要件を満たした上で、厚生労働大臣の認定を受けなければなりません。

特例子会社認定の要件

特例子会社認定を受けるための親会社と子会社のそれぞれの要件を解説します。

親会社の要件

特例子会社を設立する親会社の要件として、対象となる子会社の意思決定機関(株主総会等)を支配していることが必要です。

具体的には、株式会社である子会社の議決権の半数超を親会社が有していることなどが要件になります。

子会社の要件

特例子会社になるには、子会社は次の要件を満たす必要があります。

  1. 株式会社であること
  2. 親会社との人的関係が緊密であること
  3. 障害者の雇用が一定以上であること
  4. 重度身体障害者などの割合が一定以上あること
  5. 障害者の雇用管理能力があること
  6. 障害者の雇用促進と安定の達成が確実と認められること

人的関係が緊密であるとは、親会社と子会社が連携できていることを示す要件です。具体的には、特例子会社の役員のうち1名以上が親会社の役員などから選出されている、特例子会社の従業員の多くが親会社から派遣されている、などが該当します。

特例子会社の障害者雇用については、全従業員の2割以上、かつ5人以上が障害者であることが求められます。

重度身体障害者、知的障害者、精神障害者の割合が、雇用する障害者のうち30%以上でなければなりません。

また、専任指導員の配置や設備の改修を実施するなど、障害者にとって適正な雇用管理ができる能力があることも要件に含まれます。

出典:厚生労働省「「特例子会社」制度の概要

障害者雇用における「特例子会社」のメリット

障害者雇用で企業が特例子会社を設立するメリットを5つ紹介します。

親会社の法定雇用率に算定できる

特例子会社は、障害者雇用の法定雇用率の達成においてメリットがあります。特例子会社で雇用している障害者の人数を親会社や企業グループ全体の実雇用率に含めて実雇用率を算定できるためです。

特例子会社を設立することで法定雇用率の達成が容易になり、未達成の場合に支払う障害者雇用納付金の負担を回避できます。

また、法定雇用率を達成し、障害者を一定数以上雇用しているときは、障害者雇用調整金や報奨金を受け取れます。

障害者雇用の法定雇用率などについては、こちらの記事で詳しく解説しています。

障害者の法定雇用率とは? 雇用促進のためにすべきことを解説

障害者雇用促進法に従い、企業には定められた割合以上の障害者を雇用する義務があります。従業員の増加に伴い、法定雇用率の達成が課題になっている場合や、そもそも自社の規模で雇うべき人数がわからない場合もあるでしょう。障害者雇用の計画立案には、単なる制度の理解だけでなく、自社の雇用義務数と実雇用率を正確に把握するプロセスが不可欠です。今回は、法定雇用率の仕組みや算定方法のほか、未達成の場合のリスクについても解説します。なお、このコラムでは「障害者の雇用の促進等に関する法律」を「障害者雇用促進法」として表記します。障害者の法定雇用率とは?初めに、法定雇用率の制度の趣旨や今後の動向について解説します。障害者雇用促進法に基づく「法定雇用率」について障害者の職業的な自立や職業の安定を目的とした障害者雇用促進法では、事業主に法定雇用率の順守を義務付けています。法定雇用率とは、事業主に求められる障害者の雇用割合です。雇用と就業は、障害者が能力を発揮し、社会の一員として自立した生活を送るための軸として法律でも重視されています。事業者に期待される役割は、社会的責任として雇用を通じて障害者を支援することです。働きやすい職場づくりに取り組むことで、事業者にも、法令遵守による社会的信用の向上やダイバーシティの推進などのメリットがもたらされます。民間企業の法定雇用率は、以下の計算式で算出される数値やその他の要素を考慮して設定されています。障害者雇用率 =(A+B)÷(C+D)A:常用で働く障害者の数B:失業中の障害者の数C:すべての常用で働く労働者数D:すべての失業者数制度の対象となるのは、原則として障害者手帳を所持している方です。特殊法人や国および地方公共団体には、民間企業を下回らない雇用割合が求められます。法定雇用率に関する法令については、こちらの記事をご覧ください。 障害者雇用促進法とは?対象企業から求められる義務、違反リスクまで徹底解説 障害者雇用促進法により、障害者雇用の義務が発生することがわかっていても、具体的な内容を把握しきれていない担当者も多いのではないでしょうか。今回は、障害者雇用促進法の概要や改正ポイント、企業における義務について紹介します。障害者雇用促進法とは?障害者雇用促進法は、障害者の就労の安定を目的とした法律です。1960年に制定された身体障害者雇用促進法から始まり、名…

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障害者雇用に合わせた制度設計ができる

特例子会社では、障害者の能力や特性を考慮し、独自の就業規則や賃金体系、労働時間などの制度設計ができます。障害者雇用に配慮した会社をつくりやすいのがメリットです。

特例子会社であれば、社内で障害者のキャリアパスや健康管理などの専門的なサポート体制も構築しやすくなります。

設備投資の効率化が期待できる

特例子会社を設立することで、障害者雇用に必要な設備や職場環境の整備を集中的に行えます。バリアフリー対応や作業補助具の導入も企業グループ全体ではなく、特例子会社に集中できるため、設備投資の負担を軽減できます。

障害者雇用に対応した子会社への集中的な投資は、特例子会社で働く障害者の労働環境にとってもプラスです。障害者に対応する指導員の配置もしやすくなり、企業が雇用管理をしやすくなることで、課題も発見しやすくなります。

設備や環境が整えば、障害者の定着率も高まるため、企業側は法定雇用率の達成を維持しやすくなるメリットもあります。

障害者雇用の定着率については、こちらの記事で詳しく解説しています。

障害者雇用の定着率・離職率とは?主な離職理由や社内体制のポイント

多くの企業が多様性を重視し、障害者雇用に積極的に取り組むようになりました。一方で、「採用しても長く続かない」「職場にうまく定着しない」といった課題に直面している企業も少なくありません。実際に、障害者の就職後1年以内の離職率は一般労働者よりも高く、定着率の低さが深刻な問題となっています。今回は、障害者雇用における定着率や離職率の実態データをもとに、離職の主な理由や企業が取り組みたい社内体制のポイントについて解説します。障害者が安心して長く働ける職場を目指すために、ぜひ参考にしてみてください。障害者雇用における深刻な「離職率の高さ」2017年度の調査によると、就労継続支援A型事業所(※)などを含む就職先において、就職後3か月の定着率は80.5%と高い水準を保っていますが、1年後には61.5%にまで低下しています。なお、A型を除いた一般企業での定着率は、3か月後76.5%、1年後には58.4%です。一方、厚生労働省が公表している2017年度の「雇用動向調査」によれば、一般的な離職率は14.9%とされており、障害者の離職率はそれと比べて高い水準にあります。つまり、障害者は就職後に短期間で離職するケースが多く、職場に定着するまでの支援体制や受け入れ体制が十分でないことが浮き彫りになっています。これは、雇用する側・される側の双方にとって重要な課題であり、単なる雇用数の増加ではなく、定着支援の質を問うフェーズに入っているといえるでしょう。※A型事業所(就労継続支援A型):一般企業への就労が困難な障害者に対して、雇用契約を結んだ上で就労機会を提供し、知識や能力の向上のための訓練を実施する福祉サービス事業所出典:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究」厚生労働省「平成29年度雇用動向調査」障害者雇用の具体的な定着率・離職率就職後の定着率は障害の種類や業種、企業規模によって大きく異なります。ここでは、障害者雇用の具体的な定着率・離職率について紹介します。業種別にみた場合業種ごとに職場定着率を比較すると、障害者が働きやすい業界とそうでない業界が明確にみえてきます。以下の表は、代表的な業種における就職後3か月・1年後の定着率です。業種3か月後定着率1年後定着率医療・福祉80.5%61.7%卸売・小売業77.1%57.6%製造業76.9%60.2%サー…

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障害者雇用のノウハウを得られる

特例子会社を設立し、障害者雇用に特化して運営すると、ノウハウが蓄積していきます。例えば、障害者の特性を考慮した業務の切り出し、指導員の配置、適した職場環境の整備などです。

特例子会社で集中的に取り組むことで、親会社での雇用推進よりも効率的にノウハウを蓄積し、障害者雇用の質を向上できます。

将来的に人手不足が深刻化すると予測される中で、障害者雇用のノウハウの蓄積は、会社経営の安定化にもプラスに働くでしょう。

間接的に生産性を向上できる

データ入力や書類整理、清掃など、親会社では効率が良くないとされている業務を特例子会社に切り出せます。結果として、親会社はコア業務に集中できるようになり、企業グループ全体として生産性を向上できる場合があります。

障害者の特性に合わせた仕事を用意できるのも特例子会社のメリットです。障害者にとって働きやすい環境を提供することで、障害者個人も能力を発揮できるようになり、個々の生産性向上が期待できます。

障害者雇用における「特例子会社」の事例

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特例子会社について、事例を2つ紹介します。

みずほビジネス・チャレンジド株式会社

みずほビジネス・チャレンジドは、1998年にみずほ銀行の子会社として設立された会社です。翌年の1999年、全国で93番目に特例子会社の認定を受けました。

2025年1月時点において368名(うち重度障害者は49名)の障害者が雇用されています。

みずほビジネス・チャレンジドで行われているのは、みずほ銀行の業務の一部です。重要書類の電子化、帳票の印刷、書類の封入・発送、メール仕分けなど、親会社の銀行業務をサポートしています。

会社の中でステップアップできる仕組みも設けられています。アシスタントリーダーやチームマネージャーの役職もあり、やりがいをもって仕事に取り組める体制が構築されているのもポイントです。

銀行業務だけでなく、出張会社説明会、大学での講義など、社内外の幅広いプロジェクトへの参加もできます。

株式会社大山どりーむ

大山どりーむは、2011年に株式会社大山どりの特例子会社として設立された会社です。障害者就業・生活支援センターから、障害者の体験実習の受け入れを依頼されたことがきっかけで、特例子会社の設立に至りました。

大山どりーむでは、障害者就業・生活支援センターと連携して、親会社の業務を切り出し、障害者でも取り組める業務を特例子会社に移行しています。

主な業務は、社内清掃、鶏舎の洗浄やかご洗いで、無人卵販売所の設置により、特例子会社主体の収益事業も生み出しています。

障害者雇用における「特例子会社」の設立の流れ

特例子会社の設立は、おおむね次の流れで行います。

  1. 検討・企画
    子会社設立前に、特例子会社の目的や理念を明確にしておくことが重要です。事業内容や雇用する障害者の人数、親会社との連携などの計画を立て、基本的なビジネスモデルを検討します。

  2. 子会社設立
    通常の子会社設立と同様に、法務局で法人設立登記をします。登記申請をするには、定款の作成や役員の選任、資本金の払い込みなどが必要です。定款に記載する事業内容などは、障害者雇用の特性を考慮して決定します。

  3. 設備・環境整備と人材確保
    障害者雇用を重視して、作業場所のバリアフリー化や障害の特性に適した設備導入など、障害者にとって働きやすい環境を整備します。就業や生活をサポートする専任の指導員の配置や育成計画の策定も重要です。

環境や人員を整備した後は、ハローワークや就労支援機関などと連携して、障害者の採用活動を始めます。

  1. 障害者の雇用
    特例子会社の要件となる、従業員全体に占める障害者の割合20%(障害者のうち30%以上は重度身体障害者などであること)、かつ5人以上の障害者の雇用を充足できるようにします。

  2. 厚生労働大臣への申請・認定
    要件を満たした上で、特例子会社として申請します。申請にあたり、親会社との関係性を示す書類、雇用計画、施設の図面など、複数の書類の提出が必要です。

まとめ

常用労働者が100名を超える企業は、法定雇用率を達成するために、積極的な障害者の雇用が必要です。特例子会社を設立することで、法定雇用率算定が有利になるほか、障害者がやりがいをもって取り組める業務の切り出しや、特性に合わせた環境の整備が容易になるなど、企業も雇用される障害者もメリットのある取り組みが実現します。他社事例も参考にして、共に働く場の創造に向けて踏み出しましょう。

本記コラムに記載の内容は、2025年8月4日時点の情報に基づきます。

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めぐるファーム編集部

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