障害者雇用の定着率・離職率とは?主な離職理由や社内体制のポイント

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多くの企業が多様性を重視し、障害者雇用に積極的に取り組むようになりました。一方で、「採用しても長く続かない」「職場にうまく定着しない」といった課題に直面している企業も少なくありません。

実際に、障害者の就職後1年以内の離職率は一般労働者よりも高く、定着率の低さが深刻な問題となっています。

今回は、障害者雇用における定着率や離職率の実態データをもとに、離職の主な理由や企業が取り組みたい社内体制のポイントについて解説します。障害者が安心して長く働ける職場を目指すために、ぜひ参考にしてみてください。

障害者雇用における深刻な「離職率の高さ」

離職の画像

2017年度の調査によると、就労継続支援A型事業所(※)などを含む就職先において、就職後3か月の定着率は80.5%と高い水準を保っていますが、1年後には61.5%にまで低下しています。なお、A型を除いた一般企業での定着率は、3か月後76.5%、1年後には58.4%です。

一方、厚生労働省が公表している2017年度の「雇用動向調査」によれば、一般的な離職率は14.9%とされており、障害者の離職率はそれと比べて高い水準にあります。つまり、障害者は就職後に短期間で離職するケースが多く、職場に定着するまでの支援体制や受け入れ体制が十分でないことが浮き彫りになっています。

これは、雇用する側・される側の双方にとって重要な課題であり、単なる雇用数の増加ではなく、定着支援の質を問うフェーズに入っているといえるでしょう。

※A型事業所(就労継続支援A型):一般企業への就労が困難な障害者に対して、雇用契約を結んだ上で就労機会を提供し、知識や能力の向上のための訓練を実施する福祉サービス事業所

出典:
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究
厚生労働省「平成29年度雇用動向調査

障害者雇用の具体的な定着率・離職率

就職後の定着率は障害の種類や業種、企業規模によって大きく異なります。ここでは、障害者雇用の具体的な定着率・離職率について紹介します。

業種別にみた場合

業種ごとに職場定着率を比較すると、障害者が働きやすい業界とそうでない業界が明確にみえてきます。以下の表は、代表的な業種における就職後3か月・1年後の定着率です。

業種3か月後定着率1年後定着率
医療・福祉80.5%61.7%
卸売・小売業77.1%57.6%
製造業76.9%60.2%
サービス業72.7%56.1%
運輸・郵便業68.5%54.3%
宿泊・飲食サービス業68.1%47.8%
生活関連サービス・娯楽業79.8%62.1%
建設業66.4%44.8%

上記のデータからわかるのは、宿泊・飲食サービス業や建設業などの業種では定着率が低く、離職リスクが高いという現実です。一方、医療・福祉や製造業は比較的定着率が高く、職場環境が安定している傾向があります。

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究

企業規模別にみた場合

以下の表は、従業員数別における就職後3か月・1年後の定着率を示したものです。

企業規模(従業員数)3か月後定着率1年後定着率
50人未満66.9%46.9%
50~100人未満74.2%57.5%
100~300人未満80.8%62.7%
300~500人未満78.6%59.5%
500~1000人未満81.6%64.1%
1000人以上82.2%65.8%

この表からわかることは、企業の規模が大きくなるほど、職場定着率も高まるという傾向です。

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「害者の就業状況等に関する調査研究

障害の種類別にみた場合

以下は、主な障害種別における就職後の定着率の違いを示した表です。

障害の種類3か月後定着率1年後定着率
発達障害84.7%71.5%
知的障害85.3%68.0%
身体障害77.8%60.8%
精神障害69.9%49.3%

上記の表から、身体障害者と精神障害者の定着率が低いことがうかがえます。さらに採用経路に目を向けると、発達障害者と知的障害者の約8割は障害者枠の求人から採用されているのに対し、身体障害者は一般枠での障害開示を通じて採用されるケースが多く、精神障害者は一般枠で障害を非開示のまま就職する割合が高くなっています。

出典:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者の就業状況等に関する調査研究

障害者の主な離職理由

頭を抱える女性の画像

ここでは、障害者が離職を決意する主な理由を3つ紹介します。

理由1:職場の人間関係・雰囲気

職場の人間関係や雰囲気は、働きやすさに直結する要素です。障害があることを理由に他の社員とのコミュニケーションや業務上の情報共有がうまくいかないといったケースがしばしば見受けられます。

また、職場の同僚や上司が障害に対する理解を持たない場合、配慮がされず、本人が孤立感を覚えることもあります。さらに、既存の社員が障害について誤った先入観や偏見を持っていると、それが原因で意思疎通がうまくいかず、トラブルや誤解が生まれることも少なくありません。

本人がいくら努力しても、職場全体が障害への理解や配慮に欠けていれば、長期的に働き続けることは難しくなります。こうした環境に疲弊し、自ら離職を選ぶ障害者も少なくありません。

理由2:賃金や労働条件に対する不満

障害者雇用においては、賃金が一般雇用と比べて低くなる傾向があります。厚生労働省の調査によると、障害種別ごとの月額平均賃金は以下の通りです。

  • 身体障害者:23万5,000円
  • 知的障害者:14万7,000円
  • 精神障害者:14万9,000円
  • 発達障害者:13万円

長く働き続けたいと考えていても、生活を維持するのに十分な収入を得られないことから、やむを得ず転職や退職を選ぶ場合があります。

出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書

理由3:仕事内容が合わない

就労する際、企業はなるべく負担の少ない業務を割り当てようとする一方で、本人のスキルや適性に合わない業務を与えてしまうことがあります。業務負担が過度に重い場合、心身に大きなストレスを感じてしまい、出勤すること自体が困難になるでしょう。

その結果、「この仕事は自分には向いていない」と感じ、離職を選択することにつながります。

障害者雇用の定着率を高める社内体制のポイント

企業が障害者と長く信頼関係を築き、安心して働ける環境を提供するためには、組織全体での取り組みが求められます。ここでは、障害者雇用を安定させるために実践したい社内体制づくりのポイントを4つ紹介します。

社内全体の障害に対する理解を深める

障害の種類や特性は人それぞれ異なり、どのようなサポートが有効なのかを知っておくことは、職場での誤解やトラブルを防ぐ上で重要です。

特に現場で障害者と直接関わる管理者や同僚には、事前に研修や説明会を通じて、具体的な配慮方法や接し方を共有しておくと良いでしょう。

コミュニケーションを取りやすい環境をつくる

障害者が職場に定着する上で、「話しやすい環境」があることは重要です。日々の業務の中で困っていることや、不安に思っていることを気軽に相談できる体制があれば、問題が深刻化する前に対応が可能になります。

具体的には、定期的な面談の実施やメンタルサポート体制の整備が効果的です。また、障害の特性に応じたコミュニケーション手段の工夫も必要です。

例えば、「筆談を用いる」「ゆっくり落ち着いた話し方を心がける」「曖昧な表現を避けて具体的に伝える」といった配慮が求められます。こうした工夫が安心感や信頼感につながり、長期的な定着に結びついていきます。

支援機関へ相談する

自社だけで障害者が働きやすい環境を整えるのが難しい場合、公的な支援機関に相談するのも有効です。厚生労働省や地方自治体が運営する機関では、雇用前の準備から雇用後のフォローまで、一貫した支援を受けることが可能です。

例えば、「障害者職業センター」や「地域障害者職業センター」では、職場適応援助者(ジョブコーチ)による現場サポートや、障害者本人への就労指導など、きめ細かく支援しています。

また、「就労移行支援事業所」では、働くためのスキルを身に付ける職業訓練や面接対策を実施しています。「ハローワーク」では、障害者の雇用や定着に関するアドバイスを受けることが可能です。

民間の障害者雇用支援を活用する

障害者雇用に特化した民間の支援サービスを活用するのも手です。近年、注目を集めているのが「農園型障害者雇用支援サービス」です。農園型障害者雇用支援サービスは、企業が雇用主として障害者と雇用契約を結び、実際の業務指導や日常のサポートは農園型の支援事業者が行います。

農園では、自然の中での作業を通じてストレスの少ない環境で就労できるほか、専門スタッフが常駐しているため、日々の体調や業務の進捗についても丁寧にフォローしてもらえます。

農園型障害者支援について詳しくはこちらの記事も参考にしてください。

農園型障害者支援とは?仕組みとメリットをわかりやすく解説!

農園型障害者支援とは、農業と福祉を結びつけた「農福連携(のうふくれんけい)」という取り組みのひとつで、障害者の社会参加や自立支援を目的とした新しい雇用のかたちです。政府もこの取り組みに力を入れており、2016年には「共生社会」の実現を目指す政策の一環として農福連携を推進しました。さらに2024年には「農福連携等推進ビジョン」の改訂版が発表され、その広がりはますます加速しています。今回は、農園型障害者支援の仕組みや注目されている背景、企業側・障害者側のメリットについてわかりやすく解説します。「農福(農業×福祉)連携」のひとつ農園型障害者雇用とは障害者の就労支援と農業振興を両立させる新たな取り組みとして注目されている「農園型障害者雇用」ですが、その仕組みについて詳しく知らない方も多いのではないでしょうか。まずは農園型障害者雇用の概要と仕組みについてみていきましょう。農園型障害者雇用の概要農園型障害者雇用とは、企業が外部の支援業者から農園を借り受け、障害者の就労環境を整える雇用モデルのことです。企業は障害者を直接雇用しつつ、日々の作業場である農園の管理や業務のサポートは支援業者に委ねることで、安心して雇用を継続できます。農園という自然に囲まれた環境は、心身の健康にも良い影響を与え、特に屋内での作業が苦手な人や軽作業を希望する人にも適しています。また、企業にとっては障害者雇用義務の達成や雇用継続の課題を解決でき、社会的責任を果たす手段としても注目されています。農園型障害者雇用の仕組み農園型障害者雇用は、企業と支援業者、障害者の三者が連携して成り立つ仕組みです。以下の4ステップで構成されています。1.企業と支援業者の契約企業は、障害者雇用の受け入れを前提に支援業者と契約を結ぶ支援業者は農園を用意し、必要な設備や作業内容を整備する障害者の紹介や就労開始時のサポートも支援業者が担う2.採用活動支援業者が就労可能な障害者を企業へ紹介する企業が選考を実施し、該当者と直接雇用契約を締結する3.農園での就労開始雇用された障害者は、農園で農作業に従事する4.農園運営と継続支援支援業者が農園全体の管理・運営を担当し、企業に対して雇用継続に関するアドバイスを行う企業の担当者は、業務指導や雇用管理を担う障害者への業務指導や勤怠管理までも支援業者が代行するケースもある農園型障害者雇用が注目されてい…

https://me-gu-ru.net/media/column/152/

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まとめ

障害者雇用の現状をみると、定着率の低さや離職率の高さといった課題が顕在化しています。しかし、これらの課題は一方的に障害者側の問題としてとらえるべきではなく、企業側の受け入れ体制も大きく関係していることがわかります。

社内全体で障害に対する理解を深め、柔軟なコミュニケーション体制や外部機関との連携を整え、定着率の向上につなげましょう。

本コラムに記載の内容は、2025年8月4日時点の情報に基づきます。

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めぐるファーム編集部

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