
障害者雇用促進法により、障害者雇用の義務が発生することがわかっていても、具体的な内容を把握しきれていない担当者も多いのではないでしょうか。今回は、障害者雇用促進法の概要や改正ポイント、企業における義務について紹介します。
障害者雇用促進法とは?

障害者雇用促進法は、障害者の就労の安定を目的とした法律です。1960年に制定された身体障害者雇用促進法から始まり、名称変更や対象者の拡大、法定雇用率の引き上げなどによる改正を経て現在に至ります。正式法令名は、「障害者の雇用の促進等に関する法律」といい、ここでは「障害者雇用促進法」と表記することにします。
障害者雇用促進法の理念にあるのは、ノーマライゼーションです。障害の有無に関係なく、すべての国民が互いに尊重し合う社会の実現がベースにあります。
障害者の保護ではなく、社会の一員として、障害者自身が能力を発揮して働ける機会の確保を目的としているのが特徴です。
具体的には、障害者に対する職業的な差別の禁止、障害者雇用状況の報告、法定雇用率以上を達成する義務などが定められています。
2024年の改正ポイント
2024年の改正ポイントは4つあります。
まず、法定雇用率の引き上げです。民間企業の法定雇用率は2.3%でしたが、2024年4月以降は2.5%、2026年7月以降は2.7%の引き上げとなります。
1人以上の障害者の雇用義務が発生する範囲が拡大し、常時雇用する労働者が43.5人以上から40人以上の事業主になりました(2026年7月以降は37.5人以上に拡大)。
2つ目は、雇用率の計算の対象が拡大されたことです。改定前は、週の所定労働時間20時間以上の障害者を対象としていましたが、改定により週10時間以上20時間未満の障害者も対象に含まれます。
3つ目は、報奨金や障害者雇用調整金の支給の見直しです。これまで支給対象である障害者の人数に関わらず一律の金額が支払われていましたが、対象人数に応じて調整されることになりました。
障害者雇用調整金については、支給対象が10人を超えるときは、超過分は、1人あたりの月額29,000円から6,000円の調整(減額)となります。
報奨金は、35人を超えるときは、1人あたりの月額21,000円から超過分は5,000円の調整となります。
4つ目は、助成金の新設と拡充です。障害者雇用に関する相談援助のための助成金などが新設され、障害者介助等助成金などについて拡充がありました。
出典:
厚生労働省「事業主の方へ」
厚生労働省「事業主のみなさまへ 障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について」
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
障害者雇用促進法の対象企業と算定対象

2024年4月以降の障害者雇用促進法に定める民間企業の法定雇用率は2.5%です。法定雇用率を基礎に算定された常時雇用する労働者の数が40人以上である企業について、障害者雇用の義務が生じます。
2026年7月以降は、法定雇用率が2.7%に引き上げられるため、常時雇用の労働者37.5人以上の企業において義務が拡大されます。
障害者雇用の割合の計算において、算定の対象となるのは、以下の障害者です。
- 身体障害者手帳の交付を受けた身体障害者
- 療育手帳などの交付を受けた知的障害者
- 精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた精神障害者や発達障害者
算定対象は、基本的に障害者手帳などを保持する方であることがわかります。しかし、事情により障害者手帳を持たない方もいます。算定対象でないという理由で、雇用の対象から外して良い存在ではありません。
障害者雇用促進法には、ノーマライゼーションの理念があります。手帳の有無に関係なく、すべての方が働きやすい職場環境を整備することが重要です。
なお、障害者雇用に関する助成金については、手帳を持たない統合失調症、そううつ病(そう病、うつ病を含む)、てんかんの方も対象となります。
出典:
e-Gov「障害者の雇用の促進等に関する法律」
厚生労働省「事業主の方へ」
障害者雇用促進法が定める対象企業への義務

障害者雇用促進法において、企業に求められる4つの義務を紹介します。
雇用率制度
法定雇用率の解説でも触れたように、事業区分に応じて、公的団体や民間企業には、法定雇用率以上の障害者の雇用が義務として課されています。
2025年6月時点での法定雇用率は、民間が2.5%、国や地方公共団体が2.8%、都道府県の教育委員会が2.7%です。民間企業の法定雇用率は、2026年7月には2.7%への引き上げが予定されています。
障害者雇用率について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
差別禁止と合理的配慮の提供義務
企業には、採用や配置、昇進などの雇用に関わる場面において、障害を理由とした差別をせず、障害者に配慮した職場環境を提供することが義務付けられています。
例えば、障害を理由に雇用を拒否したり、賃金を不当に下げたり、昇給の対象から除外したりすることは禁止されています。他の労働者と対等に扱うことが雇用主である企業の義務です。
合理的配慮とは、障害者が働けるように、企業側が必要な対策を通じて障害者をサポートすることです。例えば、車いすで生活する方に合わせた作業台を準備したり、聴覚に障害がある方に対して手話通訳者を配置したりする対策があげられます。
障害者職業生活相談員の選任
障害者雇用促進法により、企業には、障害者が職業生活を相談できる体制の整備が求められています。5人以上の障害者を雇用する事業所においては、障害者職業生活相談員を選任しなければなりません。
障害者職業生活相談員に配置できるのは、資格認定講座を修了した従業員などです。選任後は、ハローワークに選任報告書を届け出なければなりません。
障害者職業生活相談員は、障害者から労働条件や職場の作業環境の相談を受けたり、特性に応じた職務内容を選定したりする役割があります。
障害者雇用に関する届出
障害者雇用の義務がある企業は、毎年6月1日時点での障害者雇用状況をハローワークに報告する必要があります。
障害者雇用状況報告書に記載するのは、対象障害者を含めた雇用の状況や事業所ごとの内訳などです。毎年7月15日を期限に提出が義務化されており、報告書の内容をもとに法定雇用率の達成状況などがチェックされます。
報告書の提出は、窓口や郵送のほか、電子申告にも対応しています。電子申告を利用する場合は、GビズIDまたはe-Govアカウントを使った電子署名が必要です。
障害者雇用促進法の法定雇用率を違反するリスク
障害者雇用促進法に定める対象企業が、障害者を雇用しないなどで法定雇用率を満たさない場合、どのようなペナルティがあるのでしょうか。3つの違反リスクを紹介します。
納付金の徴収
障害者雇用促進法では、障害者雇用納付金制度が設けられています。事業者間の経済的負担の公平を図りつつ、障害者雇用の水準を高めることを目指した制度です。
障害者雇用の対象企業のうち、常時雇用する従業員数が100人を超える企業では、法定雇用率未達の場合、障害者雇用納付金を納める義務が発生します。障害者雇用納付金は、障害者雇用に関わる助成金や報奨金の財源です。
法定雇用率の達成に不足する障害者の人数×月額5万円が納付金の額です。翌年4月1日から5月15日の期間に、一括で納付する必要があります。
なお、障害者雇用納付金は罰金ではないため、納付しても障害者雇用の義務は免除されません。
出典:
厚生労働省「事業主の方へ」
独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用納付金制度の概要」
障害者雇用納付金制度について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
行政指導の執行
法定雇用率が毎年6月1日時点で未達の企業に対して、ハローワークの指導が行われる可能性があります。行政指導の対象になるのは、原則として、障害者雇用の不足人数が10人以上の企業、雇用義務が3~4人であるにもかかわらず障害者を雇用していない企業などです。
行政指導の対象となった場合、2年間の「雇入れ計画書」の作成と提出、計画書に沿った雇用が求められます。
計画書の作成から2年経過しても改善されない場合は、一定期間の特別指導の対象となります。特別指導では、雇用事例の提供や面接会への参加の促進などが行われます。
企業名の公表
一定期間の特別指導期間経過後も法定雇用率が未達の企業は、厚生労働省などのホームページに、未達成企業として企業名が公表されます。
企業名の公表は、イメージダウンにつながります。具体的に、取引先の新規開拓や人材の採用に影響が生じる可能性があるでしょう。
まとめ
障害者雇用促進法により、障害者雇用が義務化される対象企業が拡大しています。対象となった場合、障害者雇用のための早期の取り組みが必要です。
障害者雇用促進法の対象企業では、社内体制の整備の不安があげられます。自社で十分な環境整備が難しい場合は、「めぐるファーム」のような農園型障害者雇用支援サービスも検討すると良いでしょう。
本コラムに記載の内容は、2025年8月4日時点の情報に基づきます。

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著者プロフィール
めぐるファーム編集部
障害者の雇用が少しでも促進されるよう、企業担当者が抱いている悩みや課題が解決できるようなコンテンツを、社内労務チームの協力も得ながら提供しています。